うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

ライチ☆光クラブ(映画)

ライチ☆光クラブが映画化する。

その情報が入ってきた時私は、絶対に観ない。そう思った。

好きすぎるのである。古屋兎丸の最高傑作であるこの作品が。

 

観るきっかけになったのは某動画配信サービスから配信が始まったという通知が来たからだ。私は風邪っぴきで何もできない暇つぶしに観ることにした。

 

違和感は開始5分からだった。

なんだこの雑魚っぽいウルトラ怪獣は。触手モノAVでももう少し作り込んだものを見られるぞ。後の光クラブのカリスマになるゼラがこんな怪獣みたいなものの「お告げ」を信じ切ってしまうなんて。(原作は占い師)

学校教師の臓物を「美しくない」と吐き捨てるあのゼラがこんな醜いものに感化されるはずがない。ありえない。ゼラはちょうど良く美しいけど。

 

まあまだ序盤だし。そう思いながら続きを観るが、あらゆる点で大筋は同じなのに改作部分がすべて原作の良さを潰していると言わざるを得ない。なんなんだこれは。

 

殺戮の道具もパチンコや子どもが使う遊び道具を使うからこそ少年の歪んだ倫理観とのコントラストがつくのだ。いやそれは死ぬやん!という新兵器みたいなもので殺したってそら死ぬやん。ちゃうやん。ちゃうねん。

ゼラに至ってはなぜ死に方を改変したのかわからない。便器に貫かれて死ぬっていう原作だってありえないですよ。けど。中学生が作ったロボットが人工知能を持って動くという所からもうありえない。だから別にいいの。大切なのは「それぞれが一番嫌であろう殺され方をする」という所なの。自身の美にこだわる雷蔵が顔面を潰されたように、ニコが忠誠を誓ったゼラに見捨てられて死んでいったように、ゼラは醜悪で不潔なもの(便器)に殺されなくてはならなかった。

 

しかしゼラ。色気は足りませんでしたが概ね良かったと思います。ソツなく。美しいし。スタイルも良いし。制服も似合う。しかしゼラのつけている手袋。違う。ゼラの象徴である手袋はもっとピンシャンとしていなくては意味がない。往年のタクシードライバーのようであってはならない。何十、何百のストックを持ちそれを関節が曲げにくくなるほどに糊をきかせ、雷蔵あたりにでも完璧に管理させる位で良いのだ。

 

残念だったのがなんといってもジャイボ。みんな大好きジャイボ。どういう事だ。完全にミスキャストだ。たしかに誰よりも難しい役ではあると思う。しかし、少年が青年に変化する直前の儚さや危うさ。それが引き起こす恐ろしささえ纏った色気。そういうものが全くない。美形の役者さんではあったが完全に成長しきってしまった大人の男だ。残念ながらただの色物俳優のコスプレだ。

 

良かった所もあった。メインの舞台となる基地のセット。素晴らしかった。

ライチの造形はオイルの照りばかりが目立って今一つ重厚感に欠けるが、基地の廃墟感、閉塞感は原作で感じたものと全く同じであった。ゼラの椅子や光の文字、薄暗い基地の中のさらに暗い牢にされる空間。このセットをうまく用いて舞台でやったほうが良かったのではないかと思ってしまう。古屋兎丸が原作と書いたが、そもそもは舞台が原作。場面転換も少なく、ほとんど基地内の話。観ていないが再舞台化されたのも頷ける。

 

殺戮マシーンのライチが連れ去ってきて美少女カノンは綺麗でしたね。

芯の強さがもう少し出ていると文句はなかったのですが美しかった。

カノンに関しては美しさが全て。まっすぐ伸びた黒髪も、大きな目も、細長い手足も、白い肌もすべてが理想通りの美少女。

 

タミヤやニコも良かったと思います。タミヤは唯一の普通の感性を普通なものとして、ニコは異常な忠誠心を異常なものとして描いていて。

 

しかしトータルして物足りなさばかりが残る映画だった。

そもそも少年の漠然とした将来や成長への不安や嫌悪が全然伝わってこない。そこから始まってしまった全ての過ちの元凶であるそこが描かれぬままゼラがカリスマとして祀り上げられトップに君臨していて、ただのサイコパス少年団になってしまっている。

大筋のストーリーをなぞっただけの勿体ない映画だった。

マドラー

 
 
 竹久が目を覚ましたとき、聡子は歯を磨いていた。「今日は遅いのね」。今日は遅番の日だった。聡子が自分の皿を洗い始めたところで竹久はベッドから起き上がった。「今日はあの男のところに、行くのか」聡子はなんの逡巡もなく肯首した。竹久は、聡子が用意したトーストとサラダを食べ、コーヒーを飲んだ。聡子は「皿洗いをしておいてね」と言って家から出ていった。コーヒーを時間をかけてゆっくりと飲みながら、聡子は今ごろ白い車に乗ってあの男のところへ向かっているだろう、と考えた。竹久と明夫は古くからの友人だった。聡子は週に2、3度彼のもとへ通っていた。リビングの本棚の脇には聡子宛の手紙は整然と並べてある。竹久はそれを読んだことはない。竹久は残りのコーヒーを飲み干してから身支度を始めた。
 仕事が終わると竹久は明夫のやっている喫茶店に向かった。聡子はそこで働いていた。聡子はカウンター席に座る彼の姿を認めるなり「オーダーはお決まりですか」と聞いた。「ブラックのホットを一杯」。明夫が淹れるコーヒーはとても美味しかった。竹久はコーヒーを飲みながら本を読んだ。店内にはチャールズ・ミンガスが流れていた。竹久は時折、聡子に目をやった。申し分のない美しい女性だった。喫茶店は白熱灯の暖かな光が点在して、店内に暗がりをつくっていた。客も少なく静かで落ち着いてコーヒーを飲みながら本を読むにはもってこいの空間だった。聡子はしばしば竹久のところへやってきて「水をおつぎしましょうか」と尋ねた。
 竹久は小説の区切りまで読んでしまうと、明夫にごちそうさま、と言った。明夫は、いつもありがとう、と言った。「なぜかここはとてもくつろげるんだ」。
 竹久が明夫の店に行くのは聡子が店にいるときだけだった。
 その夜、聡子は家には戻らなかった。2、3日して朝起きると、聡子が朝食を作っていた。ベーコンとレタスにトマトがはさんであるパン。竹久の好物だった。
「今日は明夫さんのお店へ行くわ」
 竹久はその日も喫茶店を訪れた。店に入ってカウンター席に座ると、聡子が「ご注文はお決まりですか」と聞いた。竹久は、ホットコーヒー、と答えた。明夫はカウンターにいた。竹久は明夫に向かって、「少し話せるか」と聞いた。明夫は、もちろん、と答えた。
「聡子のことなんだが」「君のうちに住まわせてくれないか」
 明夫は表情一つ曇らせることなく、もちろん、と答えた。竹久は、聡子が運んできたコーヒーを飲みながら、終電近くになるまで、喫茶店のカウンター席で本を読み続けた。
 次の朝目覚めると竹久は聡子の存在に気がついた。聡子が数日家をあけることはしばしばだった。しかし、そのとき、そこには、決定的に彼女の存在の無さがありありと感じられた。もちろん竹久の好物のサンドイッチもなかった。
 明夫は世に云う遊び人で、多くの女性と関係を持っていた。その中で聡子がどういう存在としてあるのか、竹久には分からなかった。
 竹久はそれから毎晩、明夫の喫茶店に通った。聡子は「ご注文は何になさいますか」と聞き、竹久は「ホットコーヒー」と答えた。


 

鏡の部屋

 セツナは左手の小指の爪を丹念に整えた。他の指、ましてや足の指などはただただ身体の白い排泄が無くなるところまで切るのみであったが、左手の小指の爪だけはセツナにとってなくてはならないものだった。その透き通るような白、それに続く滑らかな艶色。セツナにとってはその小さな指先だけが特別なのだった。先を何度も丹念に研いだ。「月より美しいわ」。セツナは目で直接見ることなく、鏡に写してその爪を眺めた。「見られることによって、美は完全なものになるのだから」。セツナにとっては、セツナのみが唯一の他者だった。セツナは水の入ったグラスに腕を伸ばすと、そのしなやかな腕の動きに耽溺した。セツナにとって自らの身体とは一つの彫刻であった。滑らかな動きのひとつひとつの瞬間を最も写実的に感覚する事ができるのだから。伸ばした腕はセツナの意識を離れて、美しい別の生き物となり、グラスを手に持ったときには、どんな彫刻家も成し遂げたことのない限りなく生身に近い彫刻となって眼孔に映し出された。手首から肘にかけて流れた血管、均整のとれた肘の骨の形、今にも握られようとする折られかけた指の形。
 セツナの食事は限りなく簡素なものだった。小さなトマト、クリームスープ、水。セツナはトマトのへたを取るのを食事の一番の楽しみにしていた。「トマトは新鮮なものでなければだめ」。指でそっと摘まみ、少しだけ左右に引く。どんなへたも同じようにとれる。「時間が均等に区切られてゆくの」。水は必ず食後に飲んだ。セツナは日常的にはほとんど水を飲まず、食事の最後になって初めて水を口にするのだった。セツナはその水が食道を流れてゆく感覚を好んでいた。
 kはセツナの部屋に通るのを許されたただ一人の人間だった。セツナの所望するものはkが何でも手に入れた。海辺の貝殻、光沢のあるもの。美しい蝶の羽、真っ黒なものに鮮やかなブルーのラインが入っているもの。セツナは黒い羽を好んだ。kはセツナの望む羽を持つ蝶を捕まえて、羽を千切る作業を何度となく行った。飛べなくなった蝶は夜の川に流した。それかセツナの望みであったから。セツナの部屋にはそれらの羽で周りを縁取られた掛け時計があった。その時計は全く実時間に合ってなかった。セツナはそれを気にもとめなかった。kがセツナに触れることは許されていなかった。ただセツナの影に触れることだけが許され、しばしばセツナはその影に接吻することをkに要請し、kはそれを行った。
 セツナはほとんどの時間眠っていて外に出ることはめったになかったが、ある日kを伴って近くにある浜辺に行った。夏であったこともあって、そこにはサーファーや家族連れやカップルたちでひしめいていた。セツナはそれらの人々の間を、まるで彼らが存在していないかのようにすり抜け、波際へ寄った。そしてkに言った。「ここにいる人はいないのよ」。
 数日経って、その海辺に若い男と女の死体がうちあげられた。セツナは一日のほとんどを眠っていたから、その日kがセツナを伺候したとき、セツナはまだ眠っていた。起きるのは何時間先になるか知れなかった。kは小さな白い錠剤を飲み下して、月光が映すセツナの陰で跪いていた。時を示さない時計の長針が三周したころセツナは瞼を薄く開いた。kは立ち上がってグラスに水を注いできた。セツナはそれを受け取るとグラスを傾けて指先を濡らした。雫がkの手の上に落ちた。kは打ち上げられた二人の死体のことをセツナに報告した。「そう、それでいいの。二人で幸せだったわね」。セツナの時計は時を示さぬまま、小さなトマトだけが確かな時間を刻んでいた。セツナの美しい爪が跪いたkの頬をなぞった。kは微動だにしなかったが、目からは涙があふれていた。
 数日後、kはセツナの部屋から姿を消した。セツナの部屋は何も変わらなかった。鏡に映る他者が一人いるだけだった。セツナは左の小指の爪を整えた。

ブラックペアン1話

ブラックペアン1話。ネタバレ多数。

 

普段はテレビを全く観ない生活をしているのでドラマなんて週一で追いかけられるはずもなく、かといってわざわざ録画する程の情熱もなく。しかしミーハーな母が録画して観ていたのでラジオ感覚で聞いていたら思ったよりも引き込まれて最初から2回見直したのでとりあえずざっくり感想を。

 

ざーーーっくり言うとブラックジャックとドクターX(観てないけど)を足して2で割ったようなドラマ。

とんでもない金額ふっかけるけど手術は完璧、人格に難あり。みたいな。

 

まず開始早々内蔵が思いっきり出てきて「あ、こういう系ね!」と見る側に意識させるのがうまいなあと。

中途半端なニノかっこいー!で終わるドラマじゃねぇぞっていう気合いみたいなものを感じる。

 

まず何よりテンポがいい。生きるか死ぬかの瀬戸際の病院内のバタバタ。唯一だらだら惰眠をむさぼる二宮くん。緩急が丁度よく、飽きない。みんなが焦ってバタバタしているのにも関わらずちんたら歩く二宮くんをいつの間にか「早く処置して!」と急かしてしまう。まるで二宮くんの下につく研修医の竹内涼真と同じ心境ではないか。してやられた。

 

良かったのは水谷豊の娘の趣里ちゃん。必要になるであろう医療器具の準備の指示をする時の凛々しさ。(「なになにその医療器具なんて言ったの?」と思ってようやく探してクーリー鈎と言っていた。医療器具コラムでもしてくれたら楽しいのに)

 

あと治験コーディネーター役の加藤綾子。アナウンサーとしては性的に狙いすぎてあんまり好きじゃなかったけど、それがバッチリガッツリはまっていて良かった。加藤綾子と会食したい。取引だってしちゃうしちゃう。取引だけじゃなくてもっとディープなお付き合いもどうですかね。

 

二宮くんはちょっとキャラがかたまってないのかなとか思ったり、これ以上やりすぎると流石に漫画チックになりすぎるのかなとか思ったり。

ただ最後の竹内涼真がオペを依頼して見事成功した後のシーン、あれは素晴らしかった。

手術が成功して一瞬ほっと息をつこうとした瞬間、竹内涼真の胸に血の手形をべったりと付ける。ぞっとした。まさにオペ室の悪魔。そのもの。

 

ただひとつ、キャストがいまひとつ物足りない。大御所!!みたいな存在のインパクトが足りない。

それぞれが素晴らしく(またはそつなく)演技をしているのは間違いない。けれど画面に映っただけで「ヤバい役」だと思わせてくれるベテラン大御所俳優がいたらもっと引き締まるのになあと。

 

小泉孝太郎が自分の病院でもないモニター室に一人で行けてしまったり、モニター室が無人で自由に触れてしまったりというありえないでしょ、という部分はあったものの、感想を書こうかなという気になる程度に引き込まれた。第二話も観る。

雨と傘と。

ここ数年ずっと使っていた傘

強風に煽られて骨が折れ、ついに壊れた

 

何てことのない、どこのコンビニにでもあるようなビニール傘

 

初めて二人きりで遊んだ日、予報外れの雨が降り出して

二人でコンビニに駆け込んで

 

本当は君のぶん一本で良かったのに

ひとつの傘に二人で入れたのに

君は私の分も買ってくれて

 

でもそれは、駅でさよならした後までを考えてくれた君の優しさ

 

もっと可愛らしい柄のきちんとした傘も持っているのだけれど、それ以来いつも使うのは買って貰ったビニール傘

 

ふと思い出して、年に一、二度しかしない君へのLINEを送ってみたけど

きっと、その言葉を君が見ることは無いのだろうな

 

 

さよなら、、傘も、君も。

 

うかびあがる


「いい加減にしろ」という言葉を電話越しに聞いて、もう耐えているのがばからしくなった。




ここ数か月だけの話ではない、きっともっとずっと昔から積み重なっていたものがいよいよ無視できなくなってしまった。


迷惑や心配をかけているのがお前にはわからないのか、という言葉を数千回刷り込まれると、それは呪いに変わるということを体感した。
呪いだとおもっているだけじゃないか、本人の気の持ちようでなんとかなるのでは、と言われたらそれまでなんだけど、わたしはどうしてもこの呪いを解く方法を見つけ出せなかった。
それにずっと呪われていて、どんなにあいしてやまないひとたちにでさえも貸し借りの理論を適用して、自分は迷惑や心配という言葉であなたを呪わないし自分も呪われないぞ、と強くおもっていることを表明したつもりだった。「あなたをあいしています、迷惑はかけないからどうか近寄らないで。」



卒業式の当日、家を出る予定時間の3時間前の夜明けにトイレで一年ぶりに酔ったわけでもなく吐きまくって、脳内回線がショートしたかのようにからだが熱くて、ずっと泣いていた。



もう貸し借りのことなんて一ミリだって考えたくなくて、あなたが嫌がってでもいいからあいしていますと大声でいいたくて、すきなもののために生きて死にたくてそのためなら長生きすることは簡単に諦められて、とにかく要領の悪くて愚図でとろくてどうしようもないひねくれもののわたしが、誰のためでもなくわたしのために生きていくことを許してほしかった。



ただただ、もうなんのために我慢するのかわからなくなるまで我慢するのはやめにするのだ。


これからどうなるかなんて知らない、どうにかなってきたひとたちの文脈なんか何にもわたしを支えるものにならない、ただわたしが作ってきた道だけがわたしを救うのだとおもったら、とてもクリアになった。



自分で浮かび上がるためにやれることをするだけ・すきなものをすきでいるために身の周りを整えていくだけ。
それしかないのだなと最近思い至りました。





というわけで、鬱々しかったのも一区切りつきそうなので、社会不適合者ではあるけれどまたいろいろかいていこうとおもいます。


長く更新しないままでごめんなさい。また企画を立てたりするのでみんなみてね。












管理人

2018/01/01/11:58

 

 

2017年に片づけられなかったことがすべてやってくるのが2018年であって、結局仕切り直しとかできないじゃんか、ということになったのがいまです。

 

 

どうもおはようございます、管理人です。

 

 

 

2017年に記事一本あげようとしてたんですけどね、隣にいたひとがマイクラを勧めるものだからマイクラしながら年を越してしまいました。うそやんか。

 

 

 

同じことを何度も語ってしまうのは、それがその人にとってよほど印象的な出来事だったのだろう、ということだけはなんとなく信じていつもバーで接客をしているのですが、改めて何度でも読者さまや書き手さまに御礼を。

 

 

昨年の夏にプライベートのしちめんどくさい案件が片付いて、実家の自分の部屋の窓辺で窓を開けて夜の空気を吸いながら眠れないまま、面白いことしたいなとほんとうに突然思いついて、それに巻き込んだ方が最初は2名いました。

わたしは部活でレクリェーション係とかいうわけのわからない係の担当だったくせに、レクリェーションの才能が全くないという矛盾を抱えていて、それをいちばん手助けしてくださった方であることには間違いないのです。

お二方には感謝しても足りないです。いつもお世話になっています、ブログ以外の個人的な相談も何度したことか。ありがとうございます。

 

 

 

足りない言葉でいい、みんなの言葉でそれとなく語られるものにわたしは興味があって、読者の中のひとりくらいはこのブログにある記事の言葉にハッとさせられたひとがいると思います。予期せぬところから救いを得るのはいつも驚きがある分、噛みしめる喜びもひとしおだと思うんだけど。正直にいえば、就活中に何度もこのブログの記事をみては救われていました。結局就活で得たものを大事にして内定は蹴ってしまうことにしたけども、それでもあのつらい時期を乗り越えられたのはみなさんのいろんな類の言葉でした。ネタとして面白かったり、あるいは愛に満ち溢れていて、静かに語られてはいるけれどまっすぐ横たわった正論であったり、個人的な懺悔であったり、あるいは現実ではなく夢であったり、手紙だったり、思い出だったり。

 

 

ひとが、それぞれの文脈で生きてきて、それに即した言葉で語られるもの以上に価値の高いことなんてあるんだろうか、というとめちゃくちゃ言い過ぎなような気もするんだけど。でも間違ってないような気もします。

 

 

 

 

みなさんは2017年、このブログの記事を読むのを楽しんでもらえたでしょうか。

わたしはとても楽しかったです。

まだ楽しくやるつもりでいます。

まだたのしむつもりでいます。

またどうぞ、本年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

透子

(@hereIam397)

 

 

 

 

 

 

 

眠りの部屋

 

 

 さかさまの気球が空から落ちてくる。燃料が布から染み出して、落ち行く先のわたしの服を滴の模様で染めた。この汚れは落ちないかもしれない。お気に入りの服だったけど。それでも気球はわたしに向かって落下してきた。気球ってどれくらいの重さなのだろう。
 目を覚ますと、わたしを覗き込む姉の瞳があった。その二つの瞳には興奮の色が見て取れた。「あなた死にかけたのよ」。わたしは死にかけた。眠いな。
 わたしは頭を殴られているような痛みで起き上がると、あたりは暗がりに満ちていた。しかし外の淡いひかりが、かろうじて寝具やシーツの清潔さをわたしに認識させた。その病室はわたしひとりだった。どこへいくの? 頭のなかで声がした。「わたしはどこへも行かない、ここにいる」。その声はしじまのなかに溶けて消えていった。気球が落ちてきたとき、と声が言った。どこへ行こうとしたの……わたしは「眠いの」と答えた。頭の痛みは声とともに消え去っていった。
 次の日、わたしは姉と母に連れられて家へ帰った。わたしの部屋はそのまま何も変わってなくて、「たった5日よ」、姉が言った。「あなたは寝てなさい、まだどこかへ行こうとしては駄目」。「わたしはどこへも行かない」。服は?「もうあれはどうやっても汚れが落ちないから、捨てちゃったわよ」。わたしはそのまま着たかったのに。あの服は今頃どこかで焼かれて灰になっているだろう。誰も祈ってくれないまま焼かれたのだろう。わたしが行くのはそこだわ。わたしが祈ってあげなくては、誰があの服のために祈ってくれるというの?
 真夜中に家を抜け出して、調べたごみ焼却場に行った。その土地に染みついているのか、ごみが焼かれている臭いがあたりに残っていた。わたしは植樹で覆われたフェンスを越えて中に入った。頭が痛み出した。どこへ行くの?「わたしはここにいる」。ゴミが焼かれた臭いがした。この中にわたしの服の粒子も含まれているんだわ。わたしは家で覚えてきた絹とポリエチレンとの化学式を思い浮かべた。これが私の祈り。再びさかさまの気球が落ちてきた。「わたしはどこへも行かない、ここにいる」。

 

 

 

 

2017.12.14 消印 Y→K

お手紙ありがとう。限りある時間をあなたと過ごしたいというあなたからの言葉が嬉しかったです。私もあなたも、お互いの両親にまだ紹介し合ってはいないけれど、どうしてだろう、一緒にいて触れ合った肌の地平に永遠がいつも見えるのです。その先を信じてみたくなる。

お察しのとおり、嫉妬しています、あなたの過去に出会ってきたひと一人一人に。愛の深さを証明する一番簡単な方法、あるいは最も効果的な復讐は、ひどい仕打ちを受けても、これまで以上に深いやさしさとこうふくの装いで逆襲のように相手を愛する事なんだと最近ようやく気付きました。人はそうして天使になるのでしょう、ことに、心から好きな人のいる女性は天国の近所に住んでいるようなもので、扉をノックして訪ねればそこはもう天使の住む場所なのです。私の言いたいのは、天使になるのは、水の上を歩くようなことなのではなく、ごく簡単なことなんだということです、ただ、それだけ。

ウェルテルがシャルロッテに恋する瞬間を思い出せますか。シャルロッテが子供たちにパンを配って笑顔でたしなめたり、なだめたりしているのです。ウェルテルはシャルロッテを天使、と言いました。天使とは、生き様ではないんです。ひとつのタブロー(絵、場面)のことなのです。

あなたはまだ幼い少年のような性質がひそんでいるから、きっと、私の言う意味が理解できないかもしれない。私が証明しているように、深く愛するようになったことに気づくには、相手からの理不尽に喜ぶようになったらそうだということです。その点、あなたは充分すぎるほど私には理不尽だ。まず、私にもっと早く出会わなかったこと、それまでにたくさんの別な人と恋に落ちてきたこと、離れ離れの時間にいろんな遊びをおぼえたこと、私以上に慕情をおぼえる人間がまだひとりいる可能性があること。私は本当はあなたに理不尽になりたい。そうして、そのときでないと信じられない王子様のようにあなたから愛されたい、大胆に、敬虔に、とびきり親切に。

では、また。お手紙を書きます。

 

DEAR  K  FROM  Y

〈11月手紙企画〉

○○さんへ。

 

 寒くなってきて、空も街もキラキラして。写真を撮るには素敵な季節の到来ですね。

 

…と、いざ手紙を書こうして、本当は長々と書いたのだけれど。

結局、消しちゃった。

なんだか、たくさんの言葉を並べても、何ひとつ伝わらない気がして。

だから、これだけ。

 


いつか、貴方の撮った写真の中に、貴方に向かって笑う私の姿がありますように。
貴方が、好きです。

 

 

×××より

秋の日

生活の匂いが好き。

わたしが吐き出した煙草の煙を厄介そうに睨みつけながら、そう言ったあなたの部屋には、ライターも、芳香剤のひとつもなかった。

ベランダに座り込んで煙草を吸っていたら、向かいのアパートの一室の明かりが不意に呆気なく消えて、その話をふと思い出した。わたしには匂いなんて微塵も感じられなかったけれど、この部屋にはどこを見渡してもあなたがいる気がするから、そういうことだと思うようにした。

五畳半の隅っこ、床に置いた小さな植木鉢に、外から射し込んだ夕の陽が当たって、白い壁にもその花を黒く咲かせている。真っ赤な口紅が付いた吸殻が灰皿に溜まっていた。

冷蔵庫の中のビールもなくなっちゃいそうだ、ゴミの日は火曜日、週に一度のお風呂掃除、あなたが帰ってくるのは明日の昼過ぎ。

はじめてわたしがこの部屋に訪れようとしたあのとき、知らない駅から知らない駅へ乗り継いで、知らない街に両足を踏み入れた。耳を塞ぎたくなる雑踏と目が痛くなるほどに眩しいネオンに囲まれて、身動きが取れなくなったわたしは携帯電話を両手で握り締めて、泣き声であなたに電話をしたことを覚えている。

そっちじゃないよ、交差点を右に曲がって、そうそう、コンビニがあるでしょ、ローソンじゃないよ、うん、その道をまっすぐ。

いまでは、近所のスーパーの閉店時間も、美味しいサンドイッチが売っている店も知っているし、煙草屋のおばちゃんとは缶コーヒーを飲み合う仲になっていた。

あの日の電話の優しい声に導かれたまま、わたしはこの部屋に通うようになった。あなたと出会ってから、知らなかったことをたくさん知った。

朝ご飯にお味噌汁を添えると可愛く笑うこと。目玉焼きは半熟だと食べてくれないこと。キシリトールの歯磨き粉が苦手なこと。ほんとうはものすごく視力が悪いこと。背中の下の方に小さな黒子が六個あること。

折った指を戻しながら、知らなくてよかったことを数えた。あなたはこの植木鉢の花の名前を、知らない。わたしはこんな派手な口紅なんて、付けない。あなたもわたしも部屋でビールなんて、飲まない。今日のあなたがどこで過ごしているかは、知らない。わたしはそれが知らなくていいことだって、知っている。あなたが好きなあの子のことを、知っている。あなたがわたしのことを好きじゃないことを、知っている。

開ききった掌は、何も掴めるものがないと思えるほどに小さかった。影の花は夜の闇に散った。夕暮れも遠くの空に散った。一番星が高いところで光っている。あなたがいなくても、この部屋には時間が流れている。

わたしがいても、いくら経っても、この部屋にはわたしの匂いはいなかった。

〈11月手紙企画〉

 

○○様へ

 

 

 

 立冬も過ぎて、日に日に寒くなりますね。いかがお過ごしでしょうか。
 最近すこし不思議なことが起こりまして、それをお伝えしたく筆を執りました。
 
 ある朝、新宿駅でのことです。目の前で男性が500円玉を落としました。拾って声をかけようとしました。しかし彼はすでに遠くに移動していました。これは大変だと慌てて改札を出まして、彼の後を追いかけました。
 
 彼ったらどんどん何かを落としていくのです。まずは、レザーグローブ。黒色で丁寧に磨かれていました。次に葉書。筆で季節の挨拶が書かれていますが切手が貼ってありません。落し物はまだ続きます。どんぐり、オレンジ色のガーベラを一輪、薄荷の飴玉、ペイズリー柄のハンカチーフ、領収書、細かい傷が沢山入ったフィルムケース、知らない国の銀貨、白い羽ペン、リップクリーム、そして挙句の果てにはさっきまで羽織っていたジャケットまで落としたのです!

 拾っては彼の後姿を確認し、数歩するとまた落し物を拾う。これを何度も繰り返しているうちに私は知らない場所にいました。落し物を拾うのに熱中して迷子になっていたのです。新宿には何年も通勤しているのに現在地がさっぱり分からない。新宿ってどこも人が多くてちょっと汚いでしょう。だけどそこはとても落ち着いた雰囲気でした。なんだかジブリの世界に迷い込んじゃったような、そんな気分になりました。
 
 これは困ったことになったわ!と思いました。しかし両手を塞ぐ落し物を彼に届けないわけにはいきません。それに私が我に返っている間にも、彼は物を落としながら歩いていくのです。ここまで来たら意地です。私は根気強く彼の後を追いかけました。

 手がいっぱいでこれ以上は拾えないというところまで彼は物を落とし続けました。狭い路地を抜けて彼はお花屋さんに入っていきました。私はこれで落し物を渡せるとホッと安心しました。最後にお花屋さんの前で緑瑪瑙のペンダントを拾い、お花屋さんの奥へ足を踏み入れました。そこは季節の花や草木が丁寧に陳列してある小さなお店でした。
 
 しかし、肝心の男性が見当たらない。今さっき入店したはずです。思わず「どうして……」と声が出てしまいました。男性はどこに行ったのでしょう。
 
 可愛らしい店員さんが私に気付いて声をかけてくださいました。
「お客様、いかがなさいましたか?」
「今さっき、このお店に男性が入ったと思うのだけども……」
店員さんは首を傾げて「いやー開店してから誰も来ていませんよ」と言うのです。
「私、男性の落し物を拾ってここまで来たんですよ」と両手に抱えた落し物を店員さんに見せました。店員さんは「このペンダント、私のものです!」と指をさしました。

 私は自分の手の中を見つめました。なんと落し物が全て消滅していました。そしてペンダントのみがあったのです。唖然としました。そんなことってありえるのでしょうか。今まで確かに持っていたのです。重たいジャケットの感覚がさっきまであったのです。

 はて私が追いかけていた男性は一体なんだったのでしょうか。私は何を必死に拾っていたのでしょうか。落し物はどこに行ってしまったのでしょうか。何もかもさっぱり分からない。あなたは何だったと思います?幽霊なのかしら。妖精だったりして!怖いもの知らずな私ですけれど、今回ばかりは参りました。

 ちなみにその後、店員さんは大喜びでした。「このペンダントは、今は亡き母の形見でとても大切なものなのです。このご恩は一生忘れません」と言いました。それをきっかけに私は店員さんとすっかり仲良くなりました。素敵な女性で、彼女に会うたびにどきどきしてしまいます。それからの話は、また今度手紙を出しますね。


 お花屋さんはいつも店員さんがひとりいるだけです。お客さんは入っていません。周辺も人がいる様子がありません。穴場スポットなのでしょうね。雲が厚い日も雨の日も、そのお店の辺りに行くと空気が冴えて太陽が輝きます。とても素晴らしい場所です。お店も綺麗で可愛らしい雰囲気ですから、今どきの若い子に言わせればインスタ映えするんじゃないかしら?機会がありましたら、いつかあなたにも紹介したいです。

 今回の手紙も長くなってしまい失礼しました。あなたにもこういう不思議なことって起こりますか?あったらぜひ教えてくださいね。それではご健康には十分気をつけて下さい。

 

 


××より


 

依存症

「依存してたんだよ」

私はつい先日、簡単に言えばふられた。

いつかこうなると予測できていたし、覚悟もあったので、ああやっぱりか、という気持ちだった。

その日バイトから帰ってきて2時くらいになりとても辛く古くからの友人に事情を話すと言われた一言がこれ。

「そもそもどこが好きだったか言えない男なんだから依存でしかないでしょ」

確かに。

私は好きなんてあいまいな感情は説明出来ないと思うしそんなものナンセンスだとすら思うけど、理論をつけることはある程度依存しないためには必要だったのかもしれない


そもそも私は、いろんなものにのめり込みやすい単純な性格だ。

ついったーが最たるもので、暇さえあればついったーを開いている。

アイドルもただ追いかけるだけでなくどんどん手を広げ、リアルでの友人より名前と顔が一致する人数が多いくらいになってしまった。

アニメもそれなりに好きでチェックしたりゲームをやり込んだりすることもある。

地図が好きで地図を読んだり路線図や国道の地図をただ広げてニヤニヤしてみたりとか、星が好きで星を眺めて星座を思い出しギリシャ神話…とか言ってみたりもする。

本も好きで好きな作家の本を集めて本棚に並べたり、マンガを集めてみたり、スマホやケータイで活字を追ったり、はたまた動画をみたり…


なんでもいちど気になるとのめり込むし、いつのまにか詳しくなっているし、これはそれぞれに依存しているんだと思っていた。

今思うとこれは中毒だ。

私はある種の情報中毒だ。

いつも情報をみていたいし、目の前の対象から得られる情報はできるだけ搾り取ろうとする。

そしてその情報の関連情報は…とキリがなくなってしまう。

今の時代、本当に簡単にいろんな情報をすぐに手に入れられる。いろんな手段で。

本当にいい時代だ。

この時代に生まれてよかった。

もし縄文時代とかに生まれていたら、私はその情報伝達の遅さに待ちくたびれて死んでいたかもしれない。


依存と中毒は似て非なるものだ。

中毒は「それがなければ生きていけないと思うくらいのめり込んでいるもの」、依存は「それがあることで生きていける自分の座標みたいなもの」というイメージが私の中にある。

だからなんだと言う訳では無いが、依存の方がたちが悪そうだ、と思っている。


私は彼に依存していたのか、それは申し訳ないなと思いながらこれからどう生きていこうか考えた。

とりあえずしばらくそういうめんどうなことはいらない。

情報を追って少しずつ考えていこうと思った。

なにか中毒になっているものがあるとしんどいことがあってもなんとか生きていけることがわかった。

私は強いぞ。


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かおるん(@kaaaaaoruuun)

11月企画「手紙」

深夜に起きているだろう君へ

 

 

伝えたいことなど、特にないのだけれど、電波を介すのも、直接君とお話するのも飽きたので、手紙を書くことにしました。

 

僕の字は読みづらくないですか?

丁寧に書いたつもりだけれど、もしかすると、読みづらいところもあるかもしれません。

 

 

僕の頭の中は、ここのところ、ずっと何かに対する嫌悪と、そんな嫌悪に対する空虚な感情で満たされています。

君の頭の中は、どうですか?

 

 

いつもならわくわくしながらする散歩も、楽しみにしていた漫画の続きを読むことも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

写真を撮るのが趣味だと前に言ったのを覚えていますか?

今の僕には、目に映る景色のどれもが目障りで仕方ありません。

あんなに、綺麗だったのにね。

 

 

君とは、よく散歩しましたね。

お互いによく知らない街をふらふら歩いたり、川沿いでくだらない話をしたり。

 

 

実は、目の前の街並みにレンズを向けながら、隣を歩いていたり、喫茶店で煙草に火をつけている君を撮りたいと思っていました。少し前までは。

それも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

どうしてかな。

今の僕には、人に会うことが怖くて、かといって一人でいることすら苦痛になってしまいました。

助けてくれなんて言うのは、烏滸がましいからやめておくよ。

 

 

もうすぐ、冬が来ますね。

マフラーに埋もれる君の横顔を見るのは、好きです。

冷たい君の手に、少しだけ触れるのが好きです。

僕の体温に犯される前の、冷たい手が。

 

でも、きっともう君の手に触れることはないでしょう。

僕が美しいと思っている君のままでいてください。

それでは、お元気で。

 

 

追伸

次に触れるときは、僕からではなく、君からがいいな。

 

 

×××より



@percent_1335

 

 

〈11月手紙企画〉

 

 

To Y

 

 


こんにちは。
台風も過ぎ去って、だんだん秋が肌に慣れはじめてきて、からたがきちんと冬を迎える準備をしはじめる頃合いですね、いかがおすごしですか。
といってもきっとここに書いてもどうせきちんとは見ないでしょうから、思いっきり普段ならあなたにいえないことを書いてみようとおもいます。

 

 

そちらの気候はよくわからないけども、たぶんきっと冬はわたしが想像しているよりかはちょっと寒さがきびしいのでしょうね。
わたしはあなたの健康状態をまだきちんとはよくわからないけども、どうか風邪はひかないように。わたしは毎冬かならず風邪もどきをひくので、パブロンSゴールドと子供用マスクがこれから手放せなくなるのです。

 

 

秋は、そういえば、あなたの家の近くの公園みたいな山に一緒に行きましたね。雨の降る中で見る紅葉は綺麗だった。泥の中を黒のパンプスで歩いて足がどれだけ汚くなろうが、あの景色はうつくしかった。わたしはうつくしいものを見るたびに心を救われているので、あなたとそれを見られたからあの時はきっとたぶんそこで死んでもよかったのだとおもう。雨の日に誰かと外を出歩く幸福ってなにより格別だと思うのですが、とにかくその日はとても印象的でした。

 

 

 

あなたと食事をすることがすこしずつ増えて寿司が苦手なわたしと寿司が好きなあなたとで手を取り合って回転寿司に行った時は「なんの恨みがあるのだろう」と本気で悩んだこと、あなたが煙草が嫌いなことを知ったあと1週間で手持ちの煙草をすべて行きつけのバーで吸いきってそれ以降は自分で買うことをやめたこと、酔っ払いからの電話が死ぬほど嫌いなわたしがなぜかあなたの場合にはそれが適用されないこと、それでも酔っ払って「あと5分以内に家にきて」なんて試されるように言われるとわたしはムキになって行ってやるぞと毎回吠えたててしまうこと、あなたのいろんな表情をみたくてつい焚きつけてしまうようなことばかり口に出してしまうこと、うつくしいものを見たら真っ先に伝えたくなってラインを開いてあなたの名前を探してしまってふいに冷静になっていつも連絡しないでおいておくこと、嫌われたくないともうどうしようもなく振り回してしまいたい気持ちとを行ったり来たりしていること、なぜすきなのかを問われてもわからない悔しさをいつも抱えていること、
でも決してこのかたちのない予感がただしいものだと、今までにないくらいに根拠もなくつよく信じていること。


ただ、すべての信念を折り曲げてあなたをすきでいても、どうしてもわたしは早く死にたくて堪らないし、いつかどんなことにも終わりが来ることの内に、あなたと会わなくなることが例にもれず含まれていることについてきちんとかなしみ泣きながら、それでもその別れ方がどういうものであれきっと受け入れるとおもいます。

 


それまでは、どうか一緒にいろんなものを見に行って、一緒にいろんなたのしいことをしませんか。

 

闇鍋だってまだしてないし、桜だって一度と言わずに何度でも見たほうがきっと楽しい、海はお嫌いですか?わたしは泳げないから見るだけでいいのですがぜひ嫌じゃなければどこかに行って潮干狩りをしませんか、わたしが貝を獲るのが上手なことを知らないでしょうからご覧にいれます、あとは秋にはわたしのだいすきな秋刀魚を食べて中秋の名月は見逃したくない、そしてまた冬が来たら今度はごま豆乳鍋をしましょう、もちろんキムチ鍋もしましょう、あなたは確か辛いのがお好きでしたよね。

 


そうしてどのくらいかも予想がつかないような年月を越えていつか、失うことすら怖いと思うまでにあなたがわたしの習慣になればいいとうっすらおもっています。

 

 

 

だからいつか、死ねない理由でいまを生きるわたしの、生きる理由に転じてくれないかなあ、なんておもっていたりするのはここだけの話にしておきましょうね。

 

 
いつかそんな夢みたいな日が来るのを本気で楽しみにしながら、またお会いしましょう。

 

 

 


From M