うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

いしいしんじ「ある一日」

久々に読書感想文を書く。

読書感想文というよりは、「読んで思った事」くらいの軽さで書いてみようと思う。

 

ある人に「一度読んでみるといい」と勧められたこの一冊。

非常に薄い。普通に読み進めれば2時間で十分終わってしまう程度。

しかし、三日ほどに分けて読む結果になった。進まなかった。

 

面白くなかったわけでも、難解な文章だったわけでもない。

頭に浮かぶ情景がハレーションを起こし、目の奥の方がチラチラと輝き、真っ白になってしまってどうにもこうにも休憩を挟まずにはいられなかった。

 

京都を舞台にした物語で、いちいち情景がリンクしてしまって仕方がない。ああ、あの道。ああ、あのギャラリー。そうだね、確かにあの道はいつもどこか濡れていて、じっとりと、ぬらぬらとした空気感がある。

その場にいるような臨場感。まるでそこに同行しているような。

しかし、その臨場感の隙間隙間に、なぜか幻想的な表現が組み込まれる。賑わう錦通りの頭上をスルスルと鱧が泳いでいるような気分にさせられる。

確かに浮かんだ情景の所在がキラキラとした水面のようなものに目が眩ませられる。

言葉によってここまで情景が浮かぶものだろうか。素直にそう感じることができる。

 

キラキラとハレーションが起こったのち、休憩を挟み読み進めると情景ががらりと変わり、出産という私が経験したことのないはずの痛みに耐えるシーンが続く。まさに鬼気迫る。男性がここまで書けるものなのか。そして序盤と同じように組み込まれる一種の非現実的な表現。それによって出産というものがより神秘的なものとして描かれる。

新しい命が産まれる奇跡、というものの表現として、こんなに上質なものがあるだろうか。

 

正直、好みではなかった。というか苦手だった。

頭の中での立ち位置が定まらない。異常にリアルで、妙にファンタジックで。

しかしその表現はどれを取っても素晴らしく、豊か。

日本語という芸術をみた。そう感じた。