うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

気温と記憶

この季節になると毎年思い出す。

昔、といっても大学生の頃のはなし。

 

私は美術の大学に通っていました。森とくっついたような田舎の大学。

野生の猿はコンビニの袋をかっぱらっていくし、森で簡素な囲いだけで飼ってるシカはすぐ脱走する。なぜか敷地の中央には孔雀の檻があって、授業中にバカでかい鳴き声が響き渡る。

 

通っている学生もそんな生き物たちに負けず劣らず派手で個性的で。

絶滅したと思われるヒッピーも、町中では希少種のゴスロリも沢山いて。

 

登校すればどうやってやったのか校舎から校舎にかけて謎の布が張り巡らされていたり(インスタレーションとかいうやつ)、夕方になれば太鼓や笛やらをドンドコピーヒャラやりながら練り歩く集団が現れる(阿波踊り部とかいうやつ)。

森から切ってきた竹で流しそうめん会が開催されてた時もあったっけ。

 

私も当時はそんな大学に馴染むくらいの派手な格好で。オレンジのロングコートだけで3着持ってたし、色彩の暴力という名前をもらった事もあった。

制作に行き詰まったら友達と図書館で映画見たり森を散歩したりして。夏はほとんどなかったけど、冬は暗くなったらカセットコンロ出してきて外で鍋やって。いつの季節も安いウィスキーで手っ取り早く酔っぱらって。通りかかった教授もついでに巻き込んで。(当時は学内で飲酒しても良かった)

 

まあそんな大学での学祭は想像以上に派手で。鉄筋で組んだ建物が一気に立ち並び(純粋に流石としか言いようのない速さとクオリティで、多分素人が建てていい高さじゃなかった)、コスプレがうじゃうじゃ練り歩き、どこもかしこも音楽が鳴り響き、24時間制は廃止になっていたものの朝一番から全裸の酔っぱらいが踊っているような、そんな学祭。暗くなってからの青いビニールシートの中は要注意で、潰れた酔っぱらいか酔っぱらいの吐瀉物か、青姦バカップルが包まれている。最後のゲストは逮捕直前の田代まさしだったっけ。

 

帰り道に転がってる見知らぬ酔っぱらいはとりあえず拾って大学近くに下宿してる知り合いの家で大量の水を飲ませたりして。それなのに元気なバカたちはその横でまた更に飲んで。気がついたら夜明け。タバコの煙で真っ白な部屋。空き缶に突っ込まれ損ねた吸い殻がカーペットに焦げ付いていて、その上に転がったであろうバカの足はなぜか傷だらけ。化粧も何もかもボロボロのまま眩しい朝日を睨みつけてまた祭に出る。冷たい風に当たるとなぜか頭だけは冴えきって、また始まる三日間の死ぬ気の耐久レース。それが祭だった。

 

 

しかしある事件のあと、そんな学祭がなくなった。

正しく言えば、アルコールが学内全面禁止になった。それは学祭がなくなったのと同義だった。事件が直接それと直結している訳ではないという意見もあったが、ほぼ直結に近い話だった。

 

今から思えば時間の問題で、寒い田舎道で拾われなかった酔っぱらいたちは危険すぎた。

学内は禁酒を巡ってかなりの物議を醸した。酒がなければ祭じゃない。そう思う人間が相当数いた。祭に近い人間ほどそう思っている人間は多かったが、事件の事も良く知っていた彼らはアルコール禁止についてほとんど文句を言わなかった。言えなかった。

私は彼らよりは遠巻きに騒動を見ていたけれど、それでもあまりに近すぎた。

 

最終的に全面禁止になった翌年からの学祭は動員もかなり減り、コスプレ会場と化した。代々育て上げた学内に棲んでいた大きな魔物が、消えてなくなった。そうすべき方向に向かうことは何かにとっては成功だっただろうが、何かにとっては失敗だった。

事が起きてからではなにもかもが遅いのだ。何も返って来ない。

 

彼女は今でもこの季節になると「いつでも来てくださいよ、部屋やっと掃除したんで」と人懐こく笑う。繰り返し、繰り返し。何度も。