うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

【映画】ファントム・スレッド

企画の途中にすみません。映画の感想を。

 

ファントム・スレッド

ネタバレを多く含みます。

 

 

 

まーーーー綺麗な音と映像で何を観せられたのか私は。

 

丁寧に気を張り巡らせて撮られている感じがビシビシと伝わってきて素晴らしかったです。

まさにレイノルズが撮ったような完璧な隙のない映画でした。

出てくるドレスも本当に素敵で。

制作途中でタグを付ける所の無駄のない手つきもはっとする程。

タグを付けるという簡単な(ただし重要な)工程ひとつであんなに心動かされるものだろうか。

 

音も素晴らしかった。

 

朝食時の食器の音。バターをトーストに塗る音。

会話もほとんどない朝の静寂にその音だけが響く。

レイノルズにとって許せる範囲で。時に許しがたい騒音となって。

 

日々の生活の中で、神経質になる時ほど音が気になる傾向がある。

いつもであれば気にならない音。あって当然の音であっても、妙に耳障りで許しがたい。

一度気になってしまったが最後、不快以外の言葉では言い表せず耐えきれない。

レイノルズのようにわめき散らす事はなくとも、一種の「あるある」を美しく描いてる。

 

他にも。針がタグを貫く時のぷすり、という音。その後に糸を引っ張る音。

違うシーンで帆布のように厚い生地に刺繍を刺す時のタグよりも硬い音。糸を引く時もタグを縫うよりも糸の通りが悪くなり、鈍くなる。全く関係のないシーンなのに、思い出して繋がる。

 

衣擦れの音、はさみで布を裁断する音、キノコを乳鉢で擦る音、そして、音を立てないように靴を脱ぐ行為。

どれを取っても耳に心地よかった。

 

けれども内容としては神経質で弱々しい男と無神経でたくましい田舎の女。

いやレイノルズ勝てるわけないよ。勝ち負けじゃない?いいえ、勝ち負けです。

超有名デザイナーに目を付けられて田舎のカフェの店員だった自分の為にドレスを作ってくれる。

彼のドレスをいつか着たいと熱望する女たちはいくらでもいるのに、自分は彼の方から(とんでもない時間であっても)ドレスを作るぞと言ってくる。

 

そりゃ気持ちいいはずですよ。

 

しかしまあ田舎のカフェ店員アルマ。レイノルズにとって理想のマネキンだったとは言えすげー女ですよ。

私だったらもう細心の注意を払って彼の神経を逆撫でしないように息をひそめて生活する。なんならレイノルズの前ではもう息しない。だって彼はマネキンとしての自分を求めて連れてきただけ。愛してなんていないし。って。

 

でもアルマは違った。「こっちの方が自然でしょ?!」「ねぇお茶いる?!」「サプライズとかどう?!」

うるせー。俺は一流デザイナーなんだドレスの事しか考えたくないんだ気が散るうせろ。

それでもめげない。すごい。挙げ句「弱ったレイノルズが大人しく自分を頼って素直になってる!かわいい!この時のこの感じ、とってもいい!」である。アホか。

 

押してダメなら大人しくさせて押さえ込む。それがアルマである。最強か。

そりゃ出会った初日に母親への異常とも思える愛の話をしちゃう繊細ボーイレイノルズに勝ち目はないですよ。無理無理。降参。愛するよ。愛してる。

 

そういえば愛のむきだしのカオリと同じやり口だな。押して押して無理なら押し切って殺す寸前まで追い込んで愛をもぎ取る手法。非常に(異常に)パワフルである。

 

レイノルズはまあわからんこともない。極端やけど。これはこういう風にしないと気が済まない。綿密な毎日のルーティンや決めた予定があって、それを崩される事が許せない。自分の中の完璧な歯車がイレギュラーな何かによって少しでも狂わされてしまうとどうにもこうにも動けなくなってしまう。

個人的には天才はそれでいいと思います。その為にシリルの様な完璧なマネージメントをしてくれる人がついていれば。

 

あんまり気にする所ではないですけど、納品したドレスが大切に扱われないからと言ってひっぺがして持って帰るあれは一体どうなんでしょうね。いや、プライドがあって崇高な行為なんでしょうけども。そんな事をしても他に顧客はいくらでもいるんでしょうけども。お金払ったんだからどうしようが勝手でしょ、とまでは思いませんが。

 

あと、ベッドシーンがなくて本当に良かったです。

採寸のシーンが十分に官能的なので。これで濃厚ベッドシーンがあれば興ざめです。勝手にやってろ感が映画全体を包み込み繊細に組み立てた全てが台無しの萎え萎え映画になっていたと思います。

 

はぁ?とかまじかよ、とかいやいや、と思う箇所ばかりだったのに総じるととても良かったです。そんな不思議な映画。