うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

《10月企画バトン》お酒とわたしとその後

 

 

 

 


自分はどうもお酒だけで酔おうとすると、かなりの量を費やさないといけないということが判明したのが、1年前くらいのことで。

 


そこから飲む時と吸う時が重ならないように、と思って過ごしてきたので、基本的に人前や1人で外で飲んでいてもどちらかに傾倒するか、どっちもしていてもペースを理性でコントロールしているか、だった。

 

 

 


ただ今年の誕生日は、久しぶりに楽しかったので、考えることをやめてどっちも好きなだけやってみた。
隣に初対面のひとがいて、はじめましての挨拶もそこそこな状態だったくせに。

 

 


わたしは嫌われたくないしみっともないところをどんなひとにも見られたくない気持ちをいつも強く持っているんだけど、その時はそれを差し引いてもだいぶ酔いが回って気持ちよかった。
今まで付き合ったひとやそれなりに深い仲になった人の前ですらこんなに酔ったところを見られるのはなかったなあ、と思いながら灰皿に溜まった本数を数える視界がもうゆらめいていて。
いつもならそんなによく聴こえない左耳が、酔ってるとなぜかよく聴こえて、それがいちばん機嫌がよかった要因かもしれない。

 

 


ばいばい、と手を振って改札で別れた時までは、そんなふうにゆらゆらして多幸感に浸れていたんだけど。


そのあとは、もうただ落ちていくだけだった。

 

 


帰りの電車で座った瞬間にまずやってきたのは、いたみ。じわじわといたいのがきて、それはまだ多幸感という言葉で誤魔化せていた。
そこから頭が重くなって、でも目を閉じてもぐるぐるしていて眠れるわけでもない。多幸感の雲行きが怪しくなってきた。


次にやってきたのは、どうしようもなく空虚な気持ちで、なにもかもに期待が持てなくて、どこかになにか大事なものを忘れてきた感覚がするのに今更戻る気にはなれない時のあの気持ちだった。
こんなのは初めてのことだったから、まずその気持ちが込み上げてきたことに戸惑って、その気持ちに心当たりがついた時にまた戸惑って、戸惑いを誤魔化しきれなくなったそのあとはもうずっとかなしみに溺れてしまっていた。

 

お酒を飲むと、どうしても昔のやらかしたことやかなしかったこと、報われないきもちや怒りみたいなものが、ものすごいスピードでよみがえってしまうらしい。

 

 

実はその日の演奏会で、後輩が周囲ときちんと折り合いをつけられないまま部活を引退するということを、本人以外の口から聞いたこと。

 

ステリハで聴いた前プロの曲の出来が、あまりにも不安すぎて堪らなかったこと。

 

実は思っているより、大事な後輩のピンチに気づいてあげられていなかったこと。

 

内定が決まったはいいものの、その選択でほんとうによかったのか今でも不安で仕方ないこと。

 

バイト先の店長と日本語を話しているはずなのに全然意思疎通が取れなくて、女の子はおろかお客さんですら大事にしないその態度に対して静かに怒りつづけていること。

 

長生きしたくないのに、年金を払いつづけていること。

 

生かされたくないのに、生きていてほしいと思う人をなんとかして生かそうとしている時点でもう生きる理由にを得てしまっている矛盾に気づいてしまっていること。

 

あの時どうしてもっと助けてくれなかったの、と泣いている自分のことをうまく助けられないもどかしさ。どれだけドライブデートがあの時楽しかったといえど、どんな些細な行為も癇に障ったらどうしようと思って5時間ずっと気を張っていて実はとても疲れていたということ。誰かに身を預けることがどうしても怖くてできなくて、誠意を欠いた態度をとられることの方が逆にセオリー通り・予想通りで安心してしまうこと。「お前の学費がいちばん家計を圧迫しているんだ」と何の気なしにいえる母親の態度や、自分のかつての生き方や理想を押しつけてくる父親、そういう"族"の呪縛から解き放たれたいのに、「家にお金がない」というただそれだけの言葉に雁字搦めになって最後までやりたいことをやりきることが怖くなる。預金がなくなったら、楽器をいつかやれなくなる未来を想像したら、棺桶に入れられた恩師の普段とは違うおそろしく穏やかな寝顔、彼女の通夜の帰りに仙台駅まで歩く中彼女の死が突然のことすぎてなにも言葉が思い浮かばなくて、「どうして、わたしを連れていかなかったんですか、」と小さくぼやいたくらいで、今日誕生日であんなに楽しい思いをしたのにどうしてこんなに悲しい思い出ばかりつよく呼び起こされるのか、

 

 

 

 


『×××、×××駅です、お出口は左側です、』

 

 

 

 


アナウンスが現実に引き戻してくれて、慌てて電車を降りた。
今日お手伝いとして参加したお礼に渡されたマドレーヌ、誕生日プレゼントに頂いたハンドスピナー、ジャケットの中には携帯と家の鍵とパスケース、ぜんぶがあった。

 


酔いは完全に冷めていた。階段を上がろうとした瞬間に左耳がここぞとばかりに耳鳴りして、現実がまたやってきたんだと思ったらどうしてもやりきれなくて涙ぐんでしまった。


階段を上りながら、今日一緒に飲んでくれたひとにお礼のメールを打つ時ですら、わたしは幸福とかなしみの境目が曖昧だった。

 

 


0:32、日付が変わって、もうわたしは21には戻れなくなってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宕子