中身のないことを惰性で書かせたら右に出るものはない夜の自分自身について
月が大きい晩には何かを語ろうという気分になる。あるいは、それは啓示のようなものなのかもしれない。普段は暗い意識の奥底に沈んでいるものが高くあがった月の光に照らされて、曖昧だった輪郭が実線になってくるような、そんな夜があるのだ。
僕はケトルに水を注ぎ、ガスコンロに火をつけてお湯を沸かす。帰り道にスーパーマーケットに寄って買ってきたインスタントコーヒーの瓶から香ばしい粒をすくって、マグカップの中に落とす。この何気ない瞬間が、僕はたまらなく好きだ。夜の冷たい空気に包まれた時間が、穏やかに流れていく。
さぁ、今夜も空虚で小さい自分に強い光を当てて、壁に大きな影を映しだそう。
「贋作も永遠に見抜かれなければ、いずれ真作になるよ」
いつか夢に見たピンク色の象が僕に語りかけた言葉を懐に抱いて、僕も美しい言葉で語り始める。いなくなったピンク色の象が待っている、ここではないどこかを目指して。