うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

眠りの部屋

 

 

 さかさまの気球が空から落ちてくる。燃料が布から染み出して、落ち行く先のわたしの服を滴の模様で染めた。この汚れは落ちないかもしれない。お気に入りの服だったけど。それでも気球はわたしに向かって落下してきた。気球ってどれくらいの重さなのだろう。
 目を覚ますと、わたしを覗き込む姉の瞳があった。その二つの瞳には興奮の色が見て取れた。「あなた死にかけたのよ」。わたしは死にかけた。眠いな。
 わたしは頭を殴られているような痛みで起き上がると、あたりは暗がりに満ちていた。しかし外の淡いひかりが、かろうじて寝具やシーツの清潔さをわたしに認識させた。その病室はわたしひとりだった。どこへいくの? 頭のなかで声がした。「わたしはどこへも行かない、ここにいる」。その声はしじまのなかに溶けて消えていった。気球が落ちてきたとき、と声が言った。どこへ行こうとしたの……わたしは「眠いの」と答えた。頭の痛みは声とともに消え去っていった。
 次の日、わたしは姉と母に連れられて家へ帰った。わたしの部屋はそのまま何も変わってなくて、「たった5日よ」、姉が言った。「あなたは寝てなさい、まだどこかへ行こうとしては駄目」。「わたしはどこへも行かない」。服は?「もうあれはどうやっても汚れが落ちないから、捨てちゃったわよ」。わたしはそのまま着たかったのに。あの服は今頃どこかで焼かれて灰になっているだろう。誰も祈ってくれないまま焼かれたのだろう。わたしが行くのはそこだわ。わたしが祈ってあげなくては、誰があの服のために祈ってくれるというの?
 真夜中に家を抜け出して、調べたごみ焼却場に行った。その土地に染みついているのか、ごみが焼かれている臭いがあたりに残っていた。わたしは植樹で覆われたフェンスを越えて中に入った。頭が痛み出した。どこへ行くの?「わたしはここにいる」。ゴミが焼かれた臭いがした。この中にわたしの服の粒子も含まれているんだわ。わたしは家で覚えてきた絹とポリエチレンとの化学式を思い浮かべた。これが私の祈り。再びさかさまの気球が落ちてきた。「わたしはどこへも行かない、ここにいる」。

 

 

 

 

2017.12.14 消印 Y→K

お手紙ありがとう。限りある時間をあなたと過ごしたいというあなたからの言葉が嬉しかったです。私もあなたも、お互いの両親にまだ紹介し合ってはいないけれど、どうしてだろう、一緒にいて触れ合った肌の地平に永遠がいつも見えるのです。その先を信じてみたくなる。

お察しのとおり、嫉妬しています、あなたの過去に出会ってきたひと一人一人に。愛の深さを証明する一番簡単な方法、あるいは最も効果的な復讐は、ひどい仕打ちを受けても、これまで以上に深いやさしさとこうふくの装いで逆襲のように相手を愛する事なんだと最近ようやく気付きました。人はそうして天使になるのでしょう、ことに、心から好きな人のいる女性は天国の近所に住んでいるようなもので、扉をノックして訪ねればそこはもう天使の住む場所なのです。私の言いたいのは、天使になるのは、水の上を歩くようなことなのではなく、ごく簡単なことなんだということです、ただ、それだけ。

ウェルテルがシャルロッテに恋する瞬間を思い出せますか。シャルロッテが子供たちにパンを配って笑顔でたしなめたり、なだめたりしているのです。ウェルテルはシャルロッテを天使、と言いました。天使とは、生き様ではないんです。ひとつのタブロー(絵、場面)のことなのです。

あなたはまだ幼い少年のような性質がひそんでいるから、きっと、私の言う意味が理解できないかもしれない。私が証明しているように、深く愛するようになったことに気づくには、相手からの理不尽に喜ぶようになったらそうだということです。その点、あなたは充分すぎるほど私には理不尽だ。まず、私にもっと早く出会わなかったこと、それまでにたくさんの別な人と恋に落ちてきたこと、離れ離れの時間にいろんな遊びをおぼえたこと、私以上に慕情をおぼえる人間がまだひとりいる可能性があること。私は本当はあなたに理不尽になりたい。そうして、そのときでないと信じられない王子様のようにあなたから愛されたい、大胆に、敬虔に、とびきり親切に。

では、また。お手紙を書きます。

 

DEAR  K  FROM  Y

〈11月手紙企画〉

○○さんへ。

 

 寒くなってきて、空も街もキラキラして。写真を撮るには素敵な季節の到来ですね。

 

…と、いざ手紙を書こうして、本当は長々と書いたのだけれど。

結局、消しちゃった。

なんだか、たくさんの言葉を並べても、何ひとつ伝わらない気がして。

だから、これだけ。

 


いつか、貴方の撮った写真の中に、貴方に向かって笑う私の姿がありますように。
貴方が、好きです。

 

 

×××より

秋の日

生活の匂いが好き。

わたしが吐き出した煙草の煙を厄介そうに睨みつけながら、そう言ったあなたの部屋には、ライターも、芳香剤のひとつもなかった。

ベランダに座り込んで煙草を吸っていたら、向かいのアパートの一室の明かりが不意に呆気なく消えて、その話をふと思い出した。わたしには匂いなんて微塵も感じられなかったけれど、この部屋にはどこを見渡してもあなたがいる気がするから、そういうことだと思うようにした。

五畳半の隅っこ、床に置いた小さな植木鉢に、外から射し込んだ夕の陽が当たって、白い壁にもその花を黒く咲かせている。真っ赤な口紅が付いた吸殻が灰皿に溜まっていた。

冷蔵庫の中のビールもなくなっちゃいそうだ、ゴミの日は火曜日、週に一度のお風呂掃除、あなたが帰ってくるのは明日の昼過ぎ。

はじめてわたしがこの部屋に訪れようとしたあのとき、知らない駅から知らない駅へ乗り継いで、知らない街に両足を踏み入れた。耳を塞ぎたくなる雑踏と目が痛くなるほどに眩しいネオンに囲まれて、身動きが取れなくなったわたしは携帯電話を両手で握り締めて、泣き声であなたに電話をしたことを覚えている。

そっちじゃないよ、交差点を右に曲がって、そうそう、コンビニがあるでしょ、ローソンじゃないよ、うん、その道をまっすぐ。

いまでは、近所のスーパーの閉店時間も、美味しいサンドイッチが売っている店も知っているし、煙草屋のおばちゃんとは缶コーヒーを飲み合う仲になっていた。

あの日の電話の優しい声に導かれたまま、わたしはこの部屋に通うようになった。あなたと出会ってから、知らなかったことをたくさん知った。

朝ご飯にお味噌汁を添えると可愛く笑うこと。目玉焼きは半熟だと食べてくれないこと。キシリトールの歯磨き粉が苦手なこと。ほんとうはものすごく視力が悪いこと。背中の下の方に小さな黒子が六個あること。

折った指を戻しながら、知らなくてよかったことを数えた。あなたはこの植木鉢の花の名前を、知らない。わたしはこんな派手な口紅なんて、付けない。あなたもわたしも部屋でビールなんて、飲まない。今日のあなたがどこで過ごしているかは、知らない。わたしはそれが知らなくていいことだって、知っている。あなたが好きなあの子のことを、知っている。あなたがわたしのことを好きじゃないことを、知っている。

開ききった掌は、何も掴めるものがないと思えるほどに小さかった。影の花は夜の闇に散った。夕暮れも遠くの空に散った。一番星が高いところで光っている。あなたがいなくても、この部屋には時間が流れている。

わたしがいても、いくら経っても、この部屋にはわたしの匂いはいなかった。

〈11月手紙企画〉

 

○○様へ

 

 

 

 立冬も過ぎて、日に日に寒くなりますね。いかがお過ごしでしょうか。
 最近すこし不思議なことが起こりまして、それをお伝えしたく筆を執りました。
 
 ある朝、新宿駅でのことです。目の前で男性が500円玉を落としました。拾って声をかけようとしました。しかし彼はすでに遠くに移動していました。これは大変だと慌てて改札を出まして、彼の後を追いかけました。
 
 彼ったらどんどん何かを落としていくのです。まずは、レザーグローブ。黒色で丁寧に磨かれていました。次に葉書。筆で季節の挨拶が書かれていますが切手が貼ってありません。落し物はまだ続きます。どんぐり、オレンジ色のガーベラを一輪、薄荷の飴玉、ペイズリー柄のハンカチーフ、領収書、細かい傷が沢山入ったフィルムケース、知らない国の銀貨、白い羽ペン、リップクリーム、そして挙句の果てにはさっきまで羽織っていたジャケットまで落としたのです!

 拾っては彼の後姿を確認し、数歩するとまた落し物を拾う。これを何度も繰り返しているうちに私は知らない場所にいました。落し物を拾うのに熱中して迷子になっていたのです。新宿には何年も通勤しているのに現在地がさっぱり分からない。新宿ってどこも人が多くてちょっと汚いでしょう。だけどそこはとても落ち着いた雰囲気でした。なんだかジブリの世界に迷い込んじゃったような、そんな気分になりました。
 
 これは困ったことになったわ!と思いました。しかし両手を塞ぐ落し物を彼に届けないわけにはいきません。それに私が我に返っている間にも、彼は物を落としながら歩いていくのです。ここまで来たら意地です。私は根気強く彼の後を追いかけました。

 手がいっぱいでこれ以上は拾えないというところまで彼は物を落とし続けました。狭い路地を抜けて彼はお花屋さんに入っていきました。私はこれで落し物を渡せるとホッと安心しました。最後にお花屋さんの前で緑瑪瑙のペンダントを拾い、お花屋さんの奥へ足を踏み入れました。そこは季節の花や草木が丁寧に陳列してある小さなお店でした。
 
 しかし、肝心の男性が見当たらない。今さっき入店したはずです。思わず「どうして……」と声が出てしまいました。男性はどこに行ったのでしょう。
 
 可愛らしい店員さんが私に気付いて声をかけてくださいました。
「お客様、いかがなさいましたか?」
「今さっき、このお店に男性が入ったと思うのだけども……」
店員さんは首を傾げて「いやー開店してから誰も来ていませんよ」と言うのです。
「私、男性の落し物を拾ってここまで来たんですよ」と両手に抱えた落し物を店員さんに見せました。店員さんは「このペンダント、私のものです!」と指をさしました。

 私は自分の手の中を見つめました。なんと落し物が全て消滅していました。そしてペンダントのみがあったのです。唖然としました。そんなことってありえるのでしょうか。今まで確かに持っていたのです。重たいジャケットの感覚がさっきまであったのです。

 はて私が追いかけていた男性は一体なんだったのでしょうか。私は何を必死に拾っていたのでしょうか。落し物はどこに行ってしまったのでしょうか。何もかもさっぱり分からない。あなたは何だったと思います?幽霊なのかしら。妖精だったりして!怖いもの知らずな私ですけれど、今回ばかりは参りました。

 ちなみにその後、店員さんは大喜びでした。「このペンダントは、今は亡き母の形見でとても大切なものなのです。このご恩は一生忘れません」と言いました。それをきっかけに私は店員さんとすっかり仲良くなりました。素敵な女性で、彼女に会うたびにどきどきしてしまいます。それからの話は、また今度手紙を出しますね。


 お花屋さんはいつも店員さんがひとりいるだけです。お客さんは入っていません。周辺も人がいる様子がありません。穴場スポットなのでしょうね。雲が厚い日も雨の日も、そのお店の辺りに行くと空気が冴えて太陽が輝きます。とても素晴らしい場所です。お店も綺麗で可愛らしい雰囲気ですから、今どきの若い子に言わせればインスタ映えするんじゃないかしら?機会がありましたら、いつかあなたにも紹介したいです。

 今回の手紙も長くなってしまい失礼しました。あなたにもこういう不思議なことって起こりますか?あったらぜひ教えてくださいね。それではご健康には十分気をつけて下さい。

 

 


××より


 

依存症

「依存してたんだよ」

私はつい先日、簡単に言えばふられた。

いつかこうなると予測できていたし、覚悟もあったので、ああやっぱりか、という気持ちだった。

その日バイトから帰ってきて2時くらいになりとても辛く古くからの友人に事情を話すと言われた一言がこれ。

「そもそもどこが好きだったか言えない男なんだから依存でしかないでしょ」

確かに。

私は好きなんてあいまいな感情は説明出来ないと思うしそんなものナンセンスだとすら思うけど、理論をつけることはある程度依存しないためには必要だったのかもしれない


そもそも私は、いろんなものにのめり込みやすい単純な性格だ。

ついったーが最たるもので、暇さえあればついったーを開いている。

アイドルもただ追いかけるだけでなくどんどん手を広げ、リアルでの友人より名前と顔が一致する人数が多いくらいになってしまった。

アニメもそれなりに好きでチェックしたりゲームをやり込んだりすることもある。

地図が好きで地図を読んだり路線図や国道の地図をただ広げてニヤニヤしてみたりとか、星が好きで星を眺めて星座を思い出しギリシャ神話…とか言ってみたりもする。

本も好きで好きな作家の本を集めて本棚に並べたり、マンガを集めてみたり、スマホやケータイで活字を追ったり、はたまた動画をみたり…


なんでもいちど気になるとのめり込むし、いつのまにか詳しくなっているし、これはそれぞれに依存しているんだと思っていた。

今思うとこれは中毒だ。

私はある種の情報中毒だ。

いつも情報をみていたいし、目の前の対象から得られる情報はできるだけ搾り取ろうとする。

そしてその情報の関連情報は…とキリがなくなってしまう。

今の時代、本当に簡単にいろんな情報をすぐに手に入れられる。いろんな手段で。

本当にいい時代だ。

この時代に生まれてよかった。

もし縄文時代とかに生まれていたら、私はその情報伝達の遅さに待ちくたびれて死んでいたかもしれない。


依存と中毒は似て非なるものだ。

中毒は「それがなければ生きていけないと思うくらいのめり込んでいるもの」、依存は「それがあることで生きていける自分の座標みたいなもの」というイメージが私の中にある。

だからなんだと言う訳では無いが、依存の方がたちが悪そうだ、と思っている。


私は彼に依存していたのか、それは申し訳ないなと思いながらこれからどう生きていこうか考えた。

とりあえずしばらくそういうめんどうなことはいらない。

情報を追って少しずつ考えていこうと思った。

なにか中毒になっているものがあるとしんどいことがあってもなんとか生きていけることがわかった。

私は強いぞ。


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かおるん(@kaaaaaoruuun)

11月企画「手紙」

深夜に起きているだろう君へ

 

 

伝えたいことなど、特にないのだけれど、電波を介すのも、直接君とお話するのも飽きたので、手紙を書くことにしました。

 

僕の字は読みづらくないですか?

丁寧に書いたつもりだけれど、もしかすると、読みづらいところもあるかもしれません。

 

 

僕の頭の中は、ここのところ、ずっと何かに対する嫌悪と、そんな嫌悪に対する空虚な感情で満たされています。

君の頭の中は、どうですか?

 

 

いつもならわくわくしながらする散歩も、楽しみにしていた漫画の続きを読むことも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

写真を撮るのが趣味だと前に言ったのを覚えていますか?

今の僕には、目に映る景色のどれもが目障りで仕方ありません。

あんなに、綺麗だったのにね。

 

 

君とは、よく散歩しましたね。

お互いによく知らない街をふらふら歩いたり、川沿いでくだらない話をしたり。

 

 

実は、目の前の街並みにレンズを向けながら、隣を歩いていたり、喫茶店で煙草に火をつけている君を撮りたいと思っていました。少し前までは。

それも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

どうしてかな。

今の僕には、人に会うことが怖くて、かといって一人でいることすら苦痛になってしまいました。

助けてくれなんて言うのは、烏滸がましいからやめておくよ。

 

 

もうすぐ、冬が来ますね。

マフラーに埋もれる君の横顔を見るのは、好きです。

冷たい君の手に、少しだけ触れるのが好きです。

僕の体温に犯される前の、冷たい手が。

 

でも、きっともう君の手に触れることはないでしょう。

僕が美しいと思っている君のままでいてください。

それでは、お元気で。

 

 

追伸

次に触れるときは、僕からではなく、君からがいいな。

 

 

×××より



@percent_1335

 

 

〈11月手紙企画〉

 

 

To Y

 

 


こんにちは。
台風も過ぎ去って、だんだん秋が肌に慣れはじめてきて、からたがきちんと冬を迎える準備をしはじめる頃合いですね、いかがおすごしですか。
といってもきっとここに書いてもどうせきちんとは見ないでしょうから、思いっきり普段ならあなたにいえないことを書いてみようとおもいます。

 

 

そちらの気候はよくわからないけども、たぶんきっと冬はわたしが想像しているよりかはちょっと寒さがきびしいのでしょうね。
わたしはあなたの健康状態をまだきちんとはよくわからないけども、どうか風邪はひかないように。わたしは毎冬かならず風邪もどきをひくので、パブロンSゴールドと子供用マスクがこれから手放せなくなるのです。

 

 

秋は、そういえば、あなたの家の近くの公園みたいな山に一緒に行きましたね。雨の降る中で見る紅葉は綺麗だった。泥の中を黒のパンプスで歩いて足がどれだけ汚くなろうが、あの景色はうつくしかった。わたしはうつくしいものを見るたびに心を救われているので、あなたとそれを見られたからあの時はきっとたぶんそこで死んでもよかったのだとおもう。雨の日に誰かと外を出歩く幸福ってなにより格別だと思うのですが、とにかくその日はとても印象的でした。

 

 

 

あなたと食事をすることがすこしずつ増えて寿司が苦手なわたしと寿司が好きなあなたとで手を取り合って回転寿司に行った時は「なんの恨みがあるのだろう」と本気で悩んだこと、あなたが煙草が嫌いなことを知ったあと1週間で手持ちの煙草をすべて行きつけのバーで吸いきってそれ以降は自分で買うことをやめたこと、酔っ払いからの電話が死ぬほど嫌いなわたしがなぜかあなたの場合にはそれが適用されないこと、それでも酔っ払って「あと5分以内に家にきて」なんて試されるように言われるとわたしはムキになって行ってやるぞと毎回吠えたててしまうこと、あなたのいろんな表情をみたくてつい焚きつけてしまうようなことばかり口に出してしまうこと、うつくしいものを見たら真っ先に伝えたくなってラインを開いてあなたの名前を探してしまってふいに冷静になっていつも連絡しないでおいておくこと、嫌われたくないともうどうしようもなく振り回してしまいたい気持ちとを行ったり来たりしていること、なぜすきなのかを問われてもわからない悔しさをいつも抱えていること、
でも決してこのかたちのない予感がただしいものだと、今までにないくらいに根拠もなくつよく信じていること。


ただ、すべての信念を折り曲げてあなたをすきでいても、どうしてもわたしは早く死にたくて堪らないし、いつかどんなことにも終わりが来ることの内に、あなたと会わなくなることが例にもれず含まれていることについてきちんとかなしみ泣きながら、それでもその別れ方がどういうものであれきっと受け入れるとおもいます。

 


それまでは、どうか一緒にいろんなものを見に行って、一緒にいろんなたのしいことをしませんか。

 

闇鍋だってまだしてないし、桜だって一度と言わずに何度でも見たほうがきっと楽しい、海はお嫌いですか?わたしは泳げないから見るだけでいいのですがぜひ嫌じゃなければどこかに行って潮干狩りをしませんか、わたしが貝を獲るのが上手なことを知らないでしょうからご覧にいれます、あとは秋にはわたしのだいすきな秋刀魚を食べて中秋の名月は見逃したくない、そしてまた冬が来たら今度はごま豆乳鍋をしましょう、もちろんキムチ鍋もしましょう、あなたは確か辛いのがお好きでしたよね。

 


そうしてどのくらいかも予想がつかないような年月を越えていつか、失うことすら怖いと思うまでにあなたがわたしの習慣になればいいとうっすらおもっています。

 

 

 

だからいつか、死ねない理由でいまを生きるわたしの、生きる理由に転じてくれないかなあ、なんておもっていたりするのはここだけの話にしておきましょうね。

 

 
いつかそんな夢みたいな日が来るのを本気で楽しみにしながら、またお会いしましょう。

 

 

 


From M

 

 

 

 

 

 

最後の晩餐

こんばんは。

はじめましてのかたははじめまして。

ずっと書きたいことたくさんあったのにすごくお久しぶりになってしまいなに書きたかったのか忘れてしまいました。

かおるんです。


なぜ今日は書くぞと思ってちゃんと書けているのかと言いますと、なんと!明日11月4日は!僕の!おめでたい23歳の!誕生日なのです!!!!

すげえ!おめでとう!!!ありがとう!!!


しかしこの23という数字、僕にとってとても重い数字なのです。

というのも


小学生のとき僕は「23際になったら結婚する」と決意していたからなのです。


とても重い。

将来への期待が重すぎる。


そもそも、昔想像していたような「23歳の自分」と今の自分の姿はかけ離れすぎていて。


まだ学生だし

可愛くもないし

優しくもないし

大人でもない


そんな昔の自分が想像していたような自分になれない自分にすこしあきらめもあって。


22歳の自分はとにかくやりたいことやれたなあと振り返るとおもいます。

推しの卒業公演のために単身で福岡に行ったり、朱印帳はじめたり。

ほしい円盤買ったり環境整えたり。

こんな今の私をなんとか認めて、理想の自分になれないならなれないなりの私でいようとおもいます。


そもそも私の人生が理想通りじゃなさすぎて(笑) その都度軌道修正もせず走りたい方向に走り続けてきたんだから、これからの人生もそうやって生きていくのだなあと思うし、それでいいかって思える自分もいます


とりあえず「結婚する!」と言っていた23歳を相手がいない状態で迎える私をお祝いしてくれる人は心の中でおめでとうとつぶやいてわたしのついったーの誕生日ついーとをふぁぼってください。

そしてできればAKB48の『涙サプライズ!』を流してください。笑

あなたの明日の5分を私にください。笑


23歳もやりたいことやって突っ走るぞーーー!!!



PS: 22歳最後の晩餐は白米、えのきと油揚げの味噌汁、卵、鮭、キュウリの浅漬けという朝ごはんな献立でした



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かおるん(@kaaaaaoruuun)



《10月企画バトン》ハッピーエンド

彼女いない歴=年齢がそうでなくなったのは高校二年の冬だった。

 

女子どころか男子と話すのすらあまり得意でなかった僕に彼女が出来るなんて少しも思っていなかった。それまでの人生で一番驚いて、その驚きは間もなくして幸福感に変わっていった。

 

付き合い始め。学校が終わると暗くなった雪の降る田舎のあぜ道を、手を繋いで彼女を家まで送った。僕の家は全然反対方向だけれども、そんな事は全く気にもしなかった。家まで送りとどけると彼女は別れ際に『今日もありがとう』って頭をぽんぽんしてくれる。彼女は照れて何も言えなくなる僕を面白がって嬉しそうな顔をする。こういうのを幸せっていうのかなってあの頃の僕は本気で思っていた。

 

— そういうふうにスタートした僕と彼女の関係は2年目を迎えることなく破局を迎えることになる。

 

当時の僕としては、なにがなんだかよく分からないまますれ違う事が多くなり、彼女が怒る回数も増えていき。そうこうしているうちに僕が地元を離れてしまったことで遠距離になって、お互いの気持ちが冷めてしまい。別れるべくして別れることになった、という感じだった。気づいた時には連絡すら返してもらえない程嫌われてしまっていた。

 

数年たった今改めて思い返してみると、別れる事になってしまった一番の原因は彼女と付き合う事が出来たことを<<ハッピーエンド>>だと、僕は無意識のうちにそう思っていたからなのかもしれない。

 

彼女と恋人関係になれたということは先に書いたようにとても幸せな事だった。ただその付き合う事が決まった瞬間とその付き合い始めに感じていた幸福感があまりにも大きかったせいか、その幸福感と実際に付き合い始めてから出来る角質やすれ違いに大きな隔たりを感じてしまうことが少なくなかった。

 

半年くらいしてくると喧嘩をする事が増えていく。その度にいつも、僕は彼女と一緒にいられるだけで幸せなのに、なんで彼女はこんな些細な事を気にして怒るのだろう。彼女は僕と一緒にいてもちっとも幸せじゃないのかもしれない 。そう思うようになっていった。

 

彼女が些細な事で怒ったりするのは、僕達が付き合うことになったことをゴールとか終わりじゃなくて始まりと考えていたからだ。それは僕とは真逆の態度だった。丁度良い塩梅で2人が心地良くいられるこれからの関係を育んでいくために。そのために必要な話し合いを持つことを彼女は望んでいたのだ。僕はそれを今自分が幸せだからという一方的な理由で半ば拒んでしまっていた。

 

好きな人と付き合うという事はとても幸せな事だけれども、それはゴールじゃなくて、むしろハッピーエンドを築きあげていくためのスタートで。そんな当然の事を当時の僕は全然理解していなかった。恋愛ゲームでの恋愛しか経験してこなかった僕は、付き合うまでのことは知っていても、付き合ってからのことはよく分かっていなくて。結果、僕の始めての恋愛は残念なかたちで終わってしまう。

 

もし昔に戻ってあの頃の僕にひとつアドバイスを贈れるのだとしたら。付き合い始めで馬鹿みたいに浮かれている僕に言ってあげたい。

 

『幸せに浸りすぎるのも程々に。何が本当のハッピーエンドか冷静に考えて。その子と別れることになると、少なくとも25歳まではまた一人ぼっちの寂しい生活を送ることになるからね』って。

 

どうせ耳を貸す事はないのだろうけれども。

 

 

nayuki(@nayukinz)


ばたばたと叩きつけるように雨が降っている。目が痛くなるほどに眩しいネオンに囲まれた駅前、ハザードランプが縦並ぶロータリー。忙しなく入れ替わり続ける車たちに、濡れる肩もいとわず駆け寄っていく人々の表情は、今の天気に似合わず華やいでいた。

わたしは駅構内の薄ぼんやりとした灯りを頼りに、手元の文庫本を追っていた。辺りを行き交う人からの奇異な視線を度々感じたけれど、それでも居心地は悪くなかった。だって、わたしは待っているのだから。

腕時計に目をやると、ちょうど短針と長針がぴったりと頂点で落ち合っているところだった。背筋をぴんと伸ばして重なり合ったそのふたりの上を、秒針が素知らぬ顔でするりと通り過ぎた時、それに続くようにふたりも歩を進める。それを繰り返していくうちに、出会ったはずのふたりの隙間は徐々に、だけど確かに広がっていった。

ふと、ぱたん、と何かが倒れたような軽い音が聞こえた。文庫本をコートのポケットに閉まい、もつれていた意識を周囲に戻した。

目の前にはアルコールのつんとした匂いを撒き散らしながら、ぎゃあぎゃあと小突き合っているよれたスーツ姿の群れ。足元には壁に立てかけていたはずの傘が倒れていた。白地に薄いピンクの花模様、その野暮ったさがどことなく気に入って、今年の春に買った。

横たわった傘を見下ろす様に、わたしのおへそぐらいまである真っ黒い傘がもう一本、憮然とした態度で壁にもたれかかっていた。ここまで連れてきてやったんだぞ、と呟きながら、傘を拾い上げた。

わたしの部屋からこの駅までの道程、ふたり分の傘を両手に持って歩くわたしは不格好で、少しの恥ずかしさもあったけれど、それでも気分は悪くなかった。だって、わたしは雨に濡れなかったから。

かつて、あなたと同じ傘の下、その道を歩いたことがあった。寄り添い合うように並べた、背丈の違うふたつの傘を見て、何故か寂しく思えたのは、この既視感だったのかもしれない。

時計盤のふたりはもう、ついさっきの出会いは嘘だったかのように、お互いがちぐはぐな方角を向いていた。目線も歩幅も違うふたりは、いつもどちらかが雨に濡れてしまっていて。

中越しに聞こえてくる雨音に紛れて、改札奥のプラットホームに続く階段からはたくさんの足音が聞こえてきた。それはすぐに人の波に変わって、まるで洪水のようにあっという間に、わたしのすぐ近くまで流れ込んできた。慣れた手つきで足早に改札を抜けた人々は、夜に溶け込むようにして、ほろほろと姿を消していった。最終電車が過ぎ去って役目を終えた駅は、大人の匂いをほのかに残したまま、朝の訪れを独りでに待っていた。

わたしの背丈に不釣り合いなその黒い傘は、部屋のどこに仕舞い込んでも、この街を離れても、いくら時間が流れても、まるで忘れられなかった。

あなたとわたしの最寄り駅だった、何度も降り立ったこの場所に、もう二度と重なることがないように、寒い冬が襲いかかってくる前に、そっと捨て去っていこうと決めた。

向かうべき場所も違ったふたりには、傘が二本、必要だったんだ。

《10月企画バトン》20代最後の日

何も代わり映えしないルーティンの中で、数字がひとつ増え、10の位が変わる。たったそれだけのことをいかに楽しめるか。そういうチャレンジをしてみたんですけどね。

本当に何も、何も変わりなく、穏やかに日は過ぎていき、ただ満ち足りて暮らすことしかできませんでした。

みなさんどうもこんばんは。柔軟剤は使ってませんでお馴染み、ふわっふわの毛布です。3度の飯より定時帰宅が好きな29歳、本日は2時間残業からのコンビニ飯でフィニッシュ。10月12日で30歳になります。20歳のときの座右の銘は「インパラは倒れない」でした。よろしくどうぞ。

 

 

 

 

さぁここで!突然ですが!
20代のとき嫌いだったものランキングのコーナー!
どんどんどん!パフッ!パフ〜〜〜!!!

 

はじめるよ!まずは第5位!

 

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第5位【ジャスミンティー】

  

いや〜これは地味ですね〜。ジャスミンティーというなんともいじり甲斐のないものが5位にくるやつですよ。

「オッ、置きにきたねふわ毛さん、そうやってすぐ助走とるじゃ〜ん?」って感じで嫌いじゃないんですけどね、いかんせん地味ですね〜。
なんなら人の好意を蹴り飛ばしてコーラ買ってこいとかワガママなことぬかす先輩の方が嫌いかもしれませんね〜。むしろそこまでジャスミンティー嫌いじゃない感じまでありますね〜。

強いて言うなら、匂いが先行してきて、飲んでみると匂いと味にギャップを感じるあたりが好きじゃないですけど、そんなのは瑣末なことですね〜。30歳になったらジャスミンティーのこと好きになりたいですね〜。

 

 

 

 

さぁ!続いて第4位!

 

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第4位【職場の人と話すこと】

 

あっ、この辺から割と嫌いですね。僕の人生には必要ないやつです。
僕は人間性があまり真っ直ぐではないタイプなので、うっかり気を許すと余計なことを口走ってしまいますからね。余計なことが積もり積もっていくと、最終的にはエネミーが現れてしまいます。
メンズがパブリックにゴーするとセブンエネミーズがホニャホニャみたいなこと、古くは日本書紀あたりから記述があるとかないとか言いますが、蘇我さんちの入鹿くんも中大兄プリンスによってアサシネーションですし、気を付けないといけませんよね。セルフケア!
そんなわけで職場の人と話したくありません。塩も砂糖も入ってない卵焼き食う方がマシです。

 

 

 


どんどん行くぞ!第3位〜〜!

 

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第3位【歯医者】

 

時は21世紀。コンビニにもやしが売ってる時代ですよ。
そんな時代なのに、虫歯になったら歯医者に行って口の中にドリルを突っ込まれ、ゴリゴリゴリゴリ、血と唾液をシュゴオオオオオオ。これって一体どういうことなんですか。
僕たち私たちが夢に描いた21世紀はコレだったんでしょうか。もっとハイパーテクノロジーがスパークしてて、メカニカルなシステムで菌をドーン!みたいなことでしょ。

YESリニアモーターカー、NOデンタルクリニックですよ。
せめて、せめてもう二度とえづかなくて済む歯ブラシを開発してほしいところですね。おっさんの喉をなめちゃいけませんよ。いとも簡単にえづくんだから。

 

 

 

 

そして惜しくも優勝を逃した注目の第2位!!

 

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第2位【味噌汁】

 

オイ、そこのふわ毛ビギナー。アンタ今「うそでしょ?そんな人いるの?日本人?」って思っただろ。それならもう日本人じゃなくていいよ。ノルウェーに移住させてくれ。ノルウェーで木こりになるよアタイは。
味噌汁嫌いの件はもう散々既出なので簡潔に済ませますが、許可もなく勝手に沈殿するから嫌いなんですよね。
ふざけやがって。生意気なんだよ。もともとは豆のくせに。

 

 

 

 

さぁ!20代のときに嫌いだったものランキング、栄えある第1位に輝いたのは〜〜?!

 

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第1位【同窓会】

 

同窓会が優勝〜〜!あーもう嫌いだわ〜〜!
もうね、一瞬歯医者の方が嫌いかなと思った時期もあったんですけど、やっぱり同窓会が嫌いですね。同窓会のここが嫌だランキングが個別に存在するくらいダメですね。オイ学生時代の同級生の結婚式、お前も同罪だからな。

 

同窓会の何がダメって、よく知らねぇ奴が知った顔で話しかけてくる上に、ノッてやらないと空気が悪くなるところなんですよね。なんだあの薄氷みたいなやつ。割るんじゃねぇぞって言いながらこっちの善意に全て委ねてきやがる。そもそも今話しかけてきてるお前のこと学生時代嫌いだったからね。

あーあーほらそこ!すぐにマウントを取るんじゃありません!年収の話は禁止!今さら出身大学の話もするんじゃないよ!それは大学の同窓会でやれ!

オイオイマジかよ!こっちがまだ結婚もしないうちに離婚するんじゃないよ!自分の元カノがバツイチで2児の子持ち、離婚原因はEXILE系の色黒旦那がよそでちんこをファンファンウィーヒッザステーッステーッしちゃったからだって聞かされて、俺はどんな顔すればいいんだよ!どう考えたって同じ風の中!ウィーノー!ウィーラーヴ!オー!とは言いがたいよ!もうやめさせてもらうわ!

 

 

 


はい。

やりきりました。まわってきたお題は「嫌いなもの」だったんですが、これで禊ができたと思います。20代の毒が抜け切りましたね。


明日の話をしようと思います。

 

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あしたは明るい日です。
自分へのご褒美に、ドラッグストアでキッチンペーパーを買って帰ろうと思います。
エレベーターを使わずに階段を昇って、健康に気を遣う意識高めなアタシを演出しようと思いますよ。大人の階段を昇るタイミングだけにね。ええ。

 

 

《10月企画バトン》冬の味覚

10月でこのブログが1才のお誕生日を迎えたそうで。おめでとうございます。
秋が好きなので、秋生まれなのが羨ましいです。
 
~・~・~・~
 
生まれた季節は春だが、秋に惹かれてしまう。
日が短くなっていく感覚、肌寒い気温、秋色の服が好きだ。ご飯もおいしくて最高。
賑やかだった夏と、肌を寄せ合う冬に挟まれた曖昧な時間はどうしてこんなに切なく、あっという間なのか。そこが好きなのだけれど。
 
秋が終われば、あっという間に冬がやってくる。
 
私は雪国で爆誕した。
小学校では体育の授業にスキーをし、休日の朝は父親と庭の雪かきをする。雪風を極力避けるため電車のドアはボタンを押さないと開閉しない。映画館もCDショップも無い。
田舎の生活は私にとってハードモードだった。まさしく冬の時代だ。
 
中学2年生の時だったと思う。その日は午前中で授業が終わりだった。
徒歩15分位の帰り道を1人で歩いて帰った。ダイナソーJr.を聞いていた。
ナンバーガールという既に解散していたバンドをインターネットで見つけて好きになり、彼らが影響を受けたバンドを熱心に聞いていた。
正直、それらの良さは当時全然分からなかった。
 
外はとても陽が照っていたが風が強く、風がぴゅうっと1つ走り抜けたあと、頭の上に冷たさを感じた。
イヤホンを外して頭上を触る。手を見ると水滴が付いていた。その年初めての雪だった。
雪なんて毎年見飽きていたが、なぜかその時は立ち止まって空を見上げた。眩しくて目を細めながら、顔にちらちらと降りてくる冷たさを浴びた。
 
口をわずかに開けてみた。
雪の味は知っていた。(吹雪だと嫌でも口に入ってしまうことがある。)
雪は大気中のゴミで出来てるから汚いって前に言われたけど、初雪だったら違うかもしれない、そう思った。
舌に乗せてみると、冷たいけどすぐに溶けてしまい、なにも味はしなかった。
やっぱりおいしくもまずくもなかった。
 
初雪だからといって、特別なことなんてひとつも無かった。
 
たったそれだけだったが、毎年初雪が降ると、この出来事を思い出す。
 
東京で過ごす冬も今年で7年目になる。
今年もこの街に初雪が降ったら、おぼつかない足取りで通勤する人々をニュースで見て苦笑し、すぐ遅延する電車にため息をつき、同時にあのひんやりした初雪の味を思い出すのだろう。
 
なんにもない味が、いつまでもいつまでも私の中で溶けずに残り続けている。
 
~・~・~・~
 
最後までご拝読いただきありがとうございました。お題は「初雪」でした。
この企画に参加でき嬉しく思います。
肌寒くなったかと思いきや夏のような気温に引き戻され、もう身体がへとへとです。。。
皆さまもくれぐれもご自愛下さい。良い秋冬にしましょうね。
 
 
上澄み(@__oldfriends)
 

 

《10月企画バトン》夏がくるたび

茜色がすぼみ、静かに広がる紺色が深くなる様を、時おり見上げながら歩く。
全身にまとわりつく熱く湿った空気とは、コンクリートの建物の中へ足を踏み入れたとき、別れた。

ひんやりとした空気のなか、階段を昇っていく。
盛んと働く換気扇の音が聞こえ、懐かしいにおいが漂う。

揚げ物だろうか。

空腹感をはっきり意識したとき、私たちは自然と小走りになった。

「ただいまー!」
脱いだ靴をそのままに、居間へ走る。
「やっぱりね!」
両手の荷物をその場に放り落とし、大皿の唐揚げをひとつつまむ。母の唐揚げは、私の大好物だ。
後から来た妹が、あっ、と声をあげた。
「これ!私のすきなやつじゃん!」
唐揚げの隣にある大皿を、指さして言う。
大場で巻いた茄子が、皿いっぱいにのっていた。
ところどころはみ出た味噌が、焦げていた。
「ばあちゃん生きてたときよく作ってくれたよね!味噌焦がしちゃったけど。焼き加減が難しいっけなあ」
「いやあ、久しぶりだあ、まさかこれがあるとは!やるね、母さん」

してやったり、という顔の母と、目を丸くする妹。二人の会話を、唐揚げ片手にぼうっと聞いていた。
私には、何の話かさっぱりわからなかった。

****

翌日朝早く、バス停へ向かう。
盆の帰省客にまじって乗り込んだバスは、ひたすら山道を走る。

ほとんど陽の当たらない山あいの集落で、降りた。あのおかずを作った祖母が、かつて暮らしていた家へ向かう。
納骨を行う予定だった。
今にも雨が降りだしそうな、暗くて重たい雲が、空を覆っていた。

家の前まで来ると、庭が見えた。
一面、緑色の雑草だった。
うんと高く咲くひまわりを、額に手をかざし、まぶしそうに眺める祖母がいたあの庭と、同じ場所とは思えなかった。

祖父と叔父だけが残った家へ入ると、知らないにおいがした。祖母が気に入っていた鳥の置物はほこりだらけで、よく見るとそばかすのようなカビがはえていた。

真新しい仏壇のある畳部屋では昔、お手玉を教わった。小豆の入ったあのお手玉は、祖母が作ってくれた。その行方はもう、わからない。

ただ、寂しい気持ちになるだけだった。

****

納骨の時間が近づいてきた。
家を出ようとしたとき、雨が降ってきた。
霧雨だったけれど、お骨が濡れないよう風呂敷で包み、両手で抱えて車に乗った。

墓が見えてきたところで、雨は本降りになった。
季節は夏の盛り。
でもこの日の雨はとても冷たく、身体の芯まで冷えた。

和尚さんの読経は、傘を打つ雨の音で、聞こえなかった。

皆の黒い傘は、咲いた花のようだった。
祖母がどこかで目を細め、この黒い花を、眺めているような気がした。

読経が終わり、お骨を納めようと墓石をずらすと、雨がさらに強くなった。
ざああという大きな音に皆が顔を上げたとき、祖父が大声をあげた。

「あーあ!ばあだべ!ここでひとりこになりたくねえって、忘れるなよって、泣いでんだべ!ほんに、すぐ泣ぐもの……」

祖母の涙にうたれながら、私は、昨日のあのおかずを思った。
祖母の家には色々な思い出があった。でも、あのおかずのことは、何も思い出せなかった。
姉ちゃんも一緒に食べたよ、と妹が言うのだから、私も食べたことがあったのだろうが、忘れてしまったらしい。

これからきっと、もっとたくさんのことを忘れていく。忘れるほど、ばあちゃんには会えなくなるだろうことを思いながら、再び、墓石が閉じてゆくのを見ていた。

****

納骨から数日が経ったある日、夕飯の買い出しにスーパーへ出掛けた。
野菜コーナーで茄子を見かけ、思わず手に取る。
小走りで大葉も探し、かごにいれた。
予定を変更し、あのおかずを作ることにした。

あの日、母に聞いたとおりに作った。
やっぱり味噌が焦げた。

「ばあちゃん、来年は焦げないように、作るからね」

両手を合わせて、目をつむる。
夏のこの時期だけでも毎年、祖母に会いたいと願う。

眼を開き、箸を手に取った。

****終わり*****


長くなってしまいましたが、
ここまで読んでくださった方、おりましたら、深く感謝申し上げます。
ありがとうございました。
お題は【すきなひと】でした。

記憶の中でしか会えない【すきなひと】が
私を生かしてくれているのだと思う日々です。

《10月企画バトン》お酒とわたしとその後

 

 

 

 


自分はどうもお酒だけで酔おうとすると、かなりの量を費やさないといけないということが判明したのが、1年前くらいのことで。

 


そこから飲む時と吸う時が重ならないように、と思って過ごしてきたので、基本的に人前や1人で外で飲んでいてもどちらかに傾倒するか、どっちもしていてもペースを理性でコントロールしているか、だった。

 

 

 


ただ今年の誕生日は、久しぶりに楽しかったので、考えることをやめてどっちも好きなだけやってみた。
隣に初対面のひとがいて、はじめましての挨拶もそこそこな状態だったくせに。

 

 


わたしは嫌われたくないしみっともないところをどんなひとにも見られたくない気持ちをいつも強く持っているんだけど、その時はそれを差し引いてもだいぶ酔いが回って気持ちよかった。
今まで付き合ったひとやそれなりに深い仲になった人の前ですらこんなに酔ったところを見られるのはなかったなあ、と思いながら灰皿に溜まった本数を数える視界がもうゆらめいていて。
いつもならそんなによく聴こえない左耳が、酔ってるとなぜかよく聴こえて、それがいちばん機嫌がよかった要因かもしれない。

 

 


ばいばい、と手を振って改札で別れた時までは、そんなふうにゆらゆらして多幸感に浸れていたんだけど。


そのあとは、もうただ落ちていくだけだった。

 

 


帰りの電車で座った瞬間にまずやってきたのは、いたみ。じわじわといたいのがきて、それはまだ多幸感という言葉で誤魔化せていた。
そこから頭が重くなって、でも目を閉じてもぐるぐるしていて眠れるわけでもない。多幸感の雲行きが怪しくなってきた。


次にやってきたのは、どうしようもなく空虚な気持ちで、なにもかもに期待が持てなくて、どこかになにか大事なものを忘れてきた感覚がするのに今更戻る気にはなれない時のあの気持ちだった。
こんなのは初めてのことだったから、まずその気持ちが込み上げてきたことに戸惑って、その気持ちに心当たりがついた時にまた戸惑って、戸惑いを誤魔化しきれなくなったそのあとはもうずっとかなしみに溺れてしまっていた。

 

お酒を飲むと、どうしても昔のやらかしたことやかなしかったこと、報われないきもちや怒りみたいなものが、ものすごいスピードでよみがえってしまうらしい。

 

 

実はその日の演奏会で、後輩が周囲ときちんと折り合いをつけられないまま部活を引退するということを、本人以外の口から聞いたこと。

 

ステリハで聴いた前プロの曲の出来が、あまりにも不安すぎて堪らなかったこと。

 

実は思っているより、大事な後輩のピンチに気づいてあげられていなかったこと。

 

内定が決まったはいいものの、その選択でほんとうによかったのか今でも不安で仕方ないこと。

 

バイト先の店長と日本語を話しているはずなのに全然意思疎通が取れなくて、女の子はおろかお客さんですら大事にしないその態度に対して静かに怒りつづけていること。

 

長生きしたくないのに、年金を払いつづけていること。

 

生かされたくないのに、生きていてほしいと思う人をなんとかして生かそうとしている時点でもう生きる理由にを得てしまっている矛盾に気づいてしまっていること。

 

あの時どうしてもっと助けてくれなかったの、と泣いている自分のことをうまく助けられないもどかしさ。どれだけドライブデートがあの時楽しかったといえど、どんな些細な行為も癇に障ったらどうしようと思って5時間ずっと気を張っていて実はとても疲れていたということ。誰かに身を預けることがどうしても怖くてできなくて、誠意を欠いた態度をとられることの方が逆にセオリー通り・予想通りで安心してしまうこと。「お前の学費がいちばん家計を圧迫しているんだ」と何の気なしにいえる母親の態度や、自分のかつての生き方や理想を押しつけてくる父親、そういう"族"の呪縛から解き放たれたいのに、「家にお金がない」というただそれだけの言葉に雁字搦めになって最後までやりたいことをやりきることが怖くなる。預金がなくなったら、楽器をいつかやれなくなる未来を想像したら、棺桶に入れられた恩師の普段とは違うおそろしく穏やかな寝顔、彼女の通夜の帰りに仙台駅まで歩く中彼女の死が突然のことすぎてなにも言葉が思い浮かばなくて、「どうして、わたしを連れていかなかったんですか、」と小さくぼやいたくらいで、今日誕生日であんなに楽しい思いをしたのにどうしてこんなに悲しい思い出ばかりつよく呼び起こされるのか、

 

 

 

 


『×××、×××駅です、お出口は左側です、』

 

 

 

 


アナウンスが現実に引き戻してくれて、慌てて電車を降りた。
今日お手伝いとして参加したお礼に渡されたマドレーヌ、誕生日プレゼントに頂いたハンドスピナー、ジャケットの中には携帯と家の鍵とパスケース、ぜんぶがあった。

 


酔いは完全に冷めていた。階段を上がろうとした瞬間に左耳がここぞとばかりに耳鳴りして、現実がまたやってきたんだと思ったらどうしてもやりきれなくて涙ぐんでしまった。


階段を上りながら、今日一緒に飲んでくれたひとにお礼のメールを打つ時ですら、わたしは幸福とかなしみの境目が曖昧だった。

 

 


0:32、日付が変わって、もうわたしは21には戻れなくなってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宕子