うまくいえないひとたち。

analfriskerのつどい

〈11月手紙企画〉

 

○○様へ

 

 

 

 立冬も過ぎて、日に日に寒くなりますね。いかがお過ごしでしょうか。
 最近すこし不思議なことが起こりまして、それをお伝えしたく筆を執りました。
 
 ある朝、新宿駅でのことです。目の前で男性が500円玉を落としました。拾って声をかけようとしました。しかし彼はすでに遠くに移動していました。これは大変だと慌てて改札を出まして、彼の後を追いかけました。
 
 彼ったらどんどん何かを落としていくのです。まずは、レザーグローブ。黒色で丁寧に磨かれていました。次に葉書。筆で季節の挨拶が書かれていますが切手が貼ってありません。落し物はまだ続きます。どんぐり、オレンジ色のガーベラを一輪、薄荷の飴玉、ペイズリー柄のハンカチーフ、領収書、細かい傷が沢山入ったフィルムケース、知らない国の銀貨、白い羽ペン、リップクリーム、そして挙句の果てにはさっきまで羽織っていたジャケットまで落としたのです!

 拾っては彼の後姿を確認し、数歩するとまた落し物を拾う。これを何度も繰り返しているうちに私は知らない場所にいました。落し物を拾うのに熱中して迷子になっていたのです。新宿には何年も通勤しているのに現在地がさっぱり分からない。新宿ってどこも人が多くてちょっと汚いでしょう。だけどそこはとても落ち着いた雰囲気でした。なんだかジブリの世界に迷い込んじゃったような、そんな気分になりました。
 
 これは困ったことになったわ!と思いました。しかし両手を塞ぐ落し物を彼に届けないわけにはいきません。それに私が我に返っている間にも、彼は物を落としながら歩いていくのです。ここまで来たら意地です。私は根気強く彼の後を追いかけました。

 手がいっぱいでこれ以上は拾えないというところまで彼は物を落とし続けました。狭い路地を抜けて彼はお花屋さんに入っていきました。私はこれで落し物を渡せるとホッと安心しました。最後にお花屋さんの前で緑瑪瑙のペンダントを拾い、お花屋さんの奥へ足を踏み入れました。そこは季節の花や草木が丁寧に陳列してある小さなお店でした。
 
 しかし、肝心の男性が見当たらない。今さっき入店したはずです。思わず「どうして……」と声が出てしまいました。男性はどこに行ったのでしょう。
 
 可愛らしい店員さんが私に気付いて声をかけてくださいました。
「お客様、いかがなさいましたか?」
「今さっき、このお店に男性が入ったと思うのだけども……」
店員さんは首を傾げて「いやー開店してから誰も来ていませんよ」と言うのです。
「私、男性の落し物を拾ってここまで来たんですよ」と両手に抱えた落し物を店員さんに見せました。店員さんは「このペンダント、私のものです!」と指をさしました。

 私は自分の手の中を見つめました。なんと落し物が全て消滅していました。そしてペンダントのみがあったのです。唖然としました。そんなことってありえるのでしょうか。今まで確かに持っていたのです。重たいジャケットの感覚がさっきまであったのです。

 はて私が追いかけていた男性は一体なんだったのでしょうか。私は何を必死に拾っていたのでしょうか。落し物はどこに行ってしまったのでしょうか。何もかもさっぱり分からない。あなたは何だったと思います?幽霊なのかしら。妖精だったりして!怖いもの知らずな私ですけれど、今回ばかりは参りました。

 ちなみにその後、店員さんは大喜びでした。「このペンダントは、今は亡き母の形見でとても大切なものなのです。このご恩は一生忘れません」と言いました。それをきっかけに私は店員さんとすっかり仲良くなりました。素敵な女性で、彼女に会うたびにどきどきしてしまいます。それからの話は、また今度手紙を出しますね。


 お花屋さんはいつも店員さんがひとりいるだけです。お客さんは入っていません。周辺も人がいる様子がありません。穴場スポットなのでしょうね。雲が厚い日も雨の日も、そのお店の辺りに行くと空気が冴えて太陽が輝きます。とても素晴らしい場所です。お店も綺麗で可愛らしい雰囲気ですから、今どきの若い子に言わせればインスタ映えするんじゃないかしら?機会がありましたら、いつかあなたにも紹介したいです。

 今回の手紙も長くなってしまい失礼しました。あなたにもこういう不思議なことって起こりますか?あったらぜひ教えてくださいね。それではご健康には十分気をつけて下さい。

 

 


××より


 

依存症

「依存してたんだよ」

私はつい先日、簡単に言えばふられた。

いつかこうなると予測できていたし、覚悟もあったので、ああやっぱりか、という気持ちだった。

その日バイトから帰ってきて2時くらいになりとても辛く古くからの友人に事情を話すと言われた一言がこれ。

「そもそもどこが好きだったか言えない男なんだから依存でしかないでしょ」

確かに。

私は好きなんてあいまいな感情は説明出来ないと思うしそんなものナンセンスだとすら思うけど、理論をつけることはある程度依存しないためには必要だったのかもしれない


そもそも私は、いろんなものにのめり込みやすい単純な性格だ。

ついったーが最たるもので、暇さえあればついったーを開いている。

アイドルもただ追いかけるだけでなくどんどん手を広げ、リアルでの友人より名前と顔が一致する人数が多いくらいになってしまった。

アニメもそれなりに好きでチェックしたりゲームをやり込んだりすることもある。

地図が好きで地図を読んだり路線図や国道の地図をただ広げてニヤニヤしてみたりとか、星が好きで星を眺めて星座を思い出しギリシャ神話…とか言ってみたりもする。

本も好きで好きな作家の本を集めて本棚に並べたり、マンガを集めてみたり、スマホやケータイで活字を追ったり、はたまた動画をみたり…


なんでもいちど気になるとのめり込むし、いつのまにか詳しくなっているし、これはそれぞれに依存しているんだと思っていた。

今思うとこれは中毒だ。

私はある種の情報中毒だ。

いつも情報をみていたいし、目の前の対象から得られる情報はできるだけ搾り取ろうとする。

そしてその情報の関連情報は…とキリがなくなってしまう。

今の時代、本当に簡単にいろんな情報をすぐに手に入れられる。いろんな手段で。

本当にいい時代だ。

この時代に生まれてよかった。

もし縄文時代とかに生まれていたら、私はその情報伝達の遅さに待ちくたびれて死んでいたかもしれない。


依存と中毒は似て非なるものだ。

中毒は「それがなければ生きていけないと思うくらいのめり込んでいるもの」、依存は「それがあることで生きていける自分の座標みたいなもの」というイメージが私の中にある。

だからなんだと言う訳では無いが、依存の方がたちが悪そうだ、と思っている。


私は彼に依存していたのか、それは申し訳ないなと思いながらこれからどう生きていこうか考えた。

とりあえずしばらくそういうめんどうなことはいらない。

情報を追って少しずつ考えていこうと思った。

なにか中毒になっているものがあるとしんどいことがあってもなんとか生きていけることがわかった。

私は強いぞ。


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かおるん(@kaaaaaoruuun)

11月企画「手紙」

深夜に起きているだろう君へ

 

 

伝えたいことなど、特にないのだけれど、電波を介すのも、直接君とお話するのも飽きたので、手紙を書くことにしました。

 

僕の字は読みづらくないですか?

丁寧に書いたつもりだけれど、もしかすると、読みづらいところもあるかもしれません。

 

 

僕の頭の中は、ここのところ、ずっと何かに対する嫌悪と、そんな嫌悪に対する空虚な感情で満たされています。

君の頭の中は、どうですか?

 

 

いつもならわくわくしながらする散歩も、楽しみにしていた漫画の続きを読むことも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

写真を撮るのが趣味だと前に言ったのを覚えていますか?

今の僕には、目に映る景色のどれもが目障りで仕方ありません。

あんなに、綺麗だったのにね。

 

 

君とは、よく散歩しましたね。

お互いによく知らない街をふらふら歩いたり、川沿いでくだらない話をしたり。

 

 

実は、目の前の街並みにレンズを向けながら、隣を歩いていたり、喫茶店で煙草に火をつけている君を撮りたいと思っていました。少し前までは。

それも、今の僕には出来そうもありません。

 

 

どうしてかな。

今の僕には、人に会うことが怖くて、かといって一人でいることすら苦痛になってしまいました。

助けてくれなんて言うのは、烏滸がましいからやめておくよ。

 

 

もうすぐ、冬が来ますね。

マフラーに埋もれる君の横顔を見るのは、好きです。

冷たい君の手に、少しだけ触れるのが好きです。

僕の体温に犯される前の、冷たい手が。

 

でも、きっともう君の手に触れることはないでしょう。

僕が美しいと思っている君のままでいてください。

それでは、お元気で。

 

 

追伸

次に触れるときは、僕からではなく、君からがいいな。

 

 

×××より



@percent_1335

 

 

〈11月手紙企画〉

 

 

To Y

 

 


こんにちは。
台風も過ぎ去って、だんだん秋が肌に慣れはじめてきて、からたがきちんと冬を迎える準備をしはじめる頃合いですね、いかがおすごしですか。
といってもきっとここに書いてもどうせきちんとは見ないでしょうから、思いっきり普段ならあなたにいえないことを書いてみようとおもいます。

 

 

そちらの気候はよくわからないけども、たぶんきっと冬はわたしが想像しているよりかはちょっと寒さがきびしいのでしょうね。
わたしはあなたの健康状態をまだきちんとはよくわからないけども、どうか風邪はひかないように。わたしは毎冬かならず風邪もどきをひくので、パブロンSゴールドと子供用マスクがこれから手放せなくなるのです。

 

 

秋は、そういえば、あなたの家の近くの公園みたいな山に一緒に行きましたね。雨の降る中で見る紅葉は綺麗だった。泥の中を黒のパンプスで歩いて足がどれだけ汚くなろうが、あの景色はうつくしかった。わたしはうつくしいものを見るたびに心を救われているので、あなたとそれを見られたからあの時はきっとたぶんそこで死んでもよかったのだとおもう。雨の日に誰かと外を出歩く幸福ってなにより格別だと思うのですが、とにかくその日はとても印象的でした。

 

 

 

あなたと食事をすることがすこしずつ増えて寿司が苦手なわたしと寿司が好きなあなたとで手を取り合って回転寿司に行った時は「なんの恨みがあるのだろう」と本気で悩んだこと、あなたが煙草が嫌いなことを知ったあと1週間で手持ちの煙草をすべて行きつけのバーで吸いきってそれ以降は自分で買うことをやめたこと、酔っ払いからの電話が死ぬほど嫌いなわたしがなぜかあなたの場合にはそれが適用されないこと、それでも酔っ払って「あと5分以内に家にきて」なんて試されるように言われるとわたしはムキになって行ってやるぞと毎回吠えたててしまうこと、あなたのいろんな表情をみたくてつい焚きつけてしまうようなことばかり口に出してしまうこと、うつくしいものを見たら真っ先に伝えたくなってラインを開いてあなたの名前を探してしまってふいに冷静になっていつも連絡しないでおいておくこと、嫌われたくないともうどうしようもなく振り回してしまいたい気持ちとを行ったり来たりしていること、なぜすきなのかを問われてもわからない悔しさをいつも抱えていること、
でも決してこのかたちのない予感がただしいものだと、今までにないくらいに根拠もなくつよく信じていること。


ただ、すべての信念を折り曲げてあなたをすきでいても、どうしてもわたしは早く死にたくて堪らないし、いつかどんなことにも終わりが来ることの内に、あなたと会わなくなることが例にもれず含まれていることについてきちんとかなしみ泣きながら、それでもその別れ方がどういうものであれきっと受け入れるとおもいます。

 


それまでは、どうか一緒にいろんなものを見に行って、一緒にいろんなたのしいことをしませんか。

 

闇鍋だってまだしてないし、桜だって一度と言わずに何度でも見たほうがきっと楽しい、海はお嫌いですか?わたしは泳げないから見るだけでいいのですがぜひ嫌じゃなければどこかに行って潮干狩りをしませんか、わたしが貝を獲るのが上手なことを知らないでしょうからご覧にいれます、あとは秋にはわたしのだいすきな秋刀魚を食べて中秋の名月は見逃したくない、そしてまた冬が来たら今度はごま豆乳鍋をしましょう、もちろんキムチ鍋もしましょう、あなたは確か辛いのがお好きでしたよね。

 


そうしてどのくらいかも予想がつかないような年月を越えていつか、失うことすら怖いと思うまでにあなたがわたしの習慣になればいいとうっすらおもっています。

 

 

 

だからいつか、死ねない理由でいまを生きるわたしの、生きる理由に転じてくれないかなあ、なんておもっていたりするのはここだけの話にしておきましょうね。

 

 
いつかそんな夢みたいな日が来るのを本気で楽しみにしながら、またお会いしましょう。

 

 

 


From M

 

 

 

 

 

 

最後の晩餐

こんばんは。

はじめましてのかたははじめまして。

ずっと書きたいことたくさんあったのにすごくお久しぶりになってしまいなに書きたかったのか忘れてしまいました。

かおるんです。


なぜ今日は書くぞと思ってちゃんと書けているのかと言いますと、なんと!明日11月4日は!僕の!おめでたい23歳の!誕生日なのです!!!!

すげえ!おめでとう!!!ありがとう!!!


しかしこの23という数字、僕にとってとても重い数字なのです。

というのも


小学生のとき僕は「23際になったら結婚する」と決意していたからなのです。


とても重い。

将来への期待が重すぎる。


そもそも、昔想像していたような「23歳の自分」と今の自分の姿はかけ離れすぎていて。


まだ学生だし

可愛くもないし

優しくもないし

大人でもない


そんな昔の自分が想像していたような自分になれない自分にすこしあきらめもあって。


22歳の自分はとにかくやりたいことやれたなあと振り返るとおもいます。

推しの卒業公演のために単身で福岡に行ったり、朱印帳はじめたり。

ほしい円盤買ったり環境整えたり。

こんな今の私をなんとか認めて、理想の自分になれないならなれないなりの私でいようとおもいます。


そもそも私の人生が理想通りじゃなさすぎて(笑) その都度軌道修正もせず走りたい方向に走り続けてきたんだから、これからの人生もそうやって生きていくのだなあと思うし、それでいいかって思える自分もいます


とりあえず「結婚する!」と言っていた23歳を相手がいない状態で迎える私をお祝いしてくれる人は心の中でおめでとうとつぶやいてわたしのついったーの誕生日ついーとをふぁぼってください。

そしてできればAKB48の『涙サプライズ!』を流してください。笑

あなたの明日の5分を私にください。笑


23歳もやりたいことやって突っ走るぞーーー!!!



PS: 22歳最後の晩餐は白米、えのきと油揚げの味噌汁、卵、鮭、キュウリの浅漬けという朝ごはんな献立でした



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かおるん(@kaaaaaoruuun)



11月企画告知

 

 

 

 


みなさんは、手紙を書いたことがありますか。

 

 

 

 

きっとおそらくあるひとの方が多くて、ないひとは多分きっと便箋にいちいち書いたことなんてないよ、と仰るかもしれませんが、メールだって充分手紙の役割を果たしているとおもいます。

 

 

たぶん、みんなここまで生きてきた中で、必ず便箋に書いたとは言わずとも、多くの誰か特定のひと一人ひとりに向けて、想いを文字化したことは誰しも身に覚えのある経験ではないでしょうか。

 

 

 


そして、もうひとつ質問をすると。
渡せなかった、あるいは届けられなかった手紙というものが、あなたにはありますか。

 

 

 

 

今回は、手紙という一方向に感情のベクトルが向けられた形式の文面を「明らかにする」という普段なら誰もが決してしないようなことを企画にあげてみました。

 

 


考えているルールはただひとつで、「送り主の名前だけはきちんと記す」ということです。誰に向けて書いたものかを記名するか否かは書き手の方の判断に任せます。ただ、【×××さんへ】のような伏せ方でいいので、宛名と送り主の誰が誰に向けて書いたものなのかを偽名でもいいので形として書くのを守っていただければな、とおもっています。


期間は決めていませんが、とりあえず11月から始めようとおもっています。
どのくらいのひとが書きたいといってくださるかわからないので、とりあえずやりたい!っていってくだされば幸いです。

 

10月企画と同じように、参加者応募ツイートを投下するので、それにいいねを押して参加表明をしてくださるとうれしいです。もちろんいつでも質問疑問受け付けます。

 

 

 


供養したい気持ちがあるひと、どうしても言えなくて最後まで言い出せずじまいになった気持ちがあるひと、これから伝えたいことがあってその練習にやってみたいひと、どんなひとでもいいので、ぜひ書いてみませんか。

 

 

 

 


透子

 

 

 

 

 

いつまでもゆううつなひとたち

 あなたたちがどんな気持ちで飛び降りたのかは分からない。

  ***

 誰かが一言『上っ!』と呟けば、上方になにか得体の知れない不安が膨らんでゆく。そういう時代だった。パキシルロヒプノールセルシンをすり鉢に放り込んで、何食わぬ顔で学校に向かう学生であふれていた。教室を天井から俯瞰すると、その大半は俯いていて、最後列ではまるで幽霊のようなメンヘラリティが手首を切っていた。救われようと思ったらそうすることができたのに、みんなこぞって地獄に堕ちたがっていたように思う。

 地獄に堕ちるならより早いほうがかっこいい。飛び降りるマンションはより高いほうが尊敬できる。よりダイナミックに死ねば一躍ヒーローだ。まさにそういう時代だった。もちろんそれは正しくて、死んだものがより強い正義だった。だから頭の冴えている奴から順番に飛び降りる。もう誰にも止められない。

「一緒に死にませんか? よろしくお願いします(/o\)」
 
 特別暑かった夏の日に、面識もないのにいきなりそんなことをメールしてきた女の子がいた。名前はもう思い出せない。左に比べて右の瞳孔周辺が青いと噂のあった女子生徒で、手首には漏れなくリストカットの跡があった。忠告をしなくても傷跡は縦に割れていた。

 親水公園の浮浪者が「永遠!」と叫べば、腐りかけの豚汁をそっと手渡すゴッドが二人はいて、日照時間は規定通り、毎日が恐ろしかった。俺は週に二日、インターネットでは星が一つで有名な精神科に通っていた。そしてある日、三連ピアスをこれ見よがしになびかせる精神科医に「もうここにはこないで欲しい」と言われた。

「どうしてですか」
「どうせ宇田川くんは治らないし」
「治らないって、なにが」
「頭が」

 なるほど頭が。別にこれと言って思うことはない。そういう振りをして、だけど内心死ぬかと思った。頭が治らないって一生このままっていうこと? おいおいなんとかしろよ。思うままに罵倒していいから最強の処方箋をくれよ。それから毎日、首のない母親が金魚すくいをしている夢を見た。夕暮れにはサイレンが鳴って、大切に思っている順番に人が死んだ。もちろん夢の話だ。

「一緒に死にませんか? よろしくお願いします(/o\)」
「おっけー。じゃあ一緒に飛び降りよう」

 きっと何も考えていなかった。だからそんな返信ができたのだ。返事を待つこともなく、それきり、その女の子とはまったく関係のない人生の悲しみを抱えて、弾けるように家を出た。そうして栃木県は宇都宮の餃子センターまでやってくると、携帯電話をトイレのゴミ箱に捨てた。そこにあなたはいなかった。東京都在住の女子高生が飛び降り自殺をはかったというニュースは一向に流れてこない。餃子定食はこれ以上ないくらい格別に、スーパーに、ミラクルおいしかった。天気予報はしつこく「曇りのち晴れ」を叫んでいた。みんな死んでしまえば良かった。

  ***

>たとえば祈りや美などの,いわば陶酔的脱臼にもみられるのは,祈りのカイロース(永遠)を説くティリッヒ(PaulTillich),ファウストに「時よ,止まれ」と叫ばせたゲーテをまつまでもない。

あなたたちはどこにもいなかった。

>また, 「ベッドやおふとん」と話す女性も,その過去において「人間のいないところでも住めると思っていた」し,現在にあってその緊張で混迷し,その未来には「なにかこわいものがやって来そうな感じがする。」

誰もいない。
助けて欲しいと思う気持ちすらなかった。

今までたくさんの夢を書き留めてきたけれど、本当のところを話すなら、ただ幽霊になりたかったんだ。あなたについてなんか書きたくなかった。コンビニでヨーグルトを買いたくなかった。社交辞令もしたくなかった。幽霊になりたかった。本当にそれだけだった。産まれたときからいまこのときまでずっとだ。でなければせめて幽霊と友達になりたかった。肩を組み合わせて「おまえの人生はゴミだな。もう取り返しがつかねえよ」と笑い合っていたかった。それが叶えば他には何もいらなかったのに。

「助けて欲しい」
 
 インターネットでは誰もが口を揃えてそう言った。それが本心であろうがなかろうが全員助けてあげるべきだったし、でなければインターネットの屋上から飛び降りるべきだったと思う。完全な球体をかち割ってみればそこには何もない。そんなこと分かりきっているのに!

 思い出されるのは「とっても気持ちが楽になるヨ」と言われて、広尾の交差点で幅を利かせる謎のイラン人からルーランをワンシート3000円で買ったことであり、誰もいない教室で、一人、立ち尽くしていた夏のことだ。あるいはお互い目を合わせずに挨拶を交わした九月十八日の大阪、堺市産業振興センターブラームスの一番で寝てしまった武蔵野文化会館。錦糸町のおでん!そしてあなたがまだ飛び降りていなかった、あの日の。

  ***

 思えばいつも夢日記を書いていた。センチメンタルに言えば、一つ記事を書くたびにそのたびに傷ついて、全人類が救われなければいいのになぁと思った。夢の中では虹色のホーキンス博士が百回くらい記者会見を開いていたし、そのうち四、五回は本当に隕石が落ちてきた。左手の指は絶対に六本あって、得体の知れないインターネットが毎日メールをくれた。

 それはつまり「一緒に死にませんか? よろしくお願いします(/o\)」割れるように頭が痛かった。高校を卒業してそこそこ良い大学に入った。はじめて独り暮らしをした。目的不明のサークルに入ってすぐに辞めた。人を殺した。大丈夫、それは多分夢の話だ。土曜日の夜には必ず麻婆豆腐を作った。真面目にバイトすることが嫌だったから治験で生活費を稼いだ。毎日メールが来て、毎日それを削除した。大学を辞めた。

「おっけー。じゃあ一緒に飛び降りよう」

 自分でも書いた覚えのない日記には『あと十分で解脱する』と記されている。『人生がつらいのはホルモンバランスが乱れているからだ!』とも記されていて。どうしてもそんな人生に耐えきれず、かと言ってマンションの屋上から飛び降りるほどの度胸もなく――。

 2014年以前、インターネットにはたまに幽霊が現れた。誰かが「こっちに来るな」と叫ぶとそっちへ行った。「そっち」になにがあるのか分からないまま、`id` int (YOU) NOT NULL , 学校の屋上から女の子が飛び降り、誰かの心に馬鹿みたいに綺麗な花が咲いた。次の休み時間には、男の子が飛び降り、その翌日には、あなたが飛び降りた。あなたというのが誰のことなのか、もはやうまく思い出せないのだけれど、確かにあなたは飛び降りて、間違いなく死んだ。

 少しずつ記憶が薄れてゆく。インターネットの名前が十を超えたあたりから、いちいちハンドルを覚えておくことを辞めたように思う。輝かしいメンタルヘルスでたまにはツイッターをやる。ハート型の何かに数字が書き込まれる。アカウントを削除し、別のアカウントを開設する。2014年以降の話だ。2014年以前、あなたたちは学校の屋上から飛び降りてインターネットになった。

 膨大な情報アーカイブに隠れるようにして、ひときわ鮮やかな花束の画像が紛れ込んでいる。花束には「おっけー。じゃあ一緒に飛び降りよう」というタグが仕込まれていて、どうやってもあなたたちの名前が思い出せない。ただひたすらに視界がぐるぐると回転している。得体の知れない不安が吹き上がり、この文章はここで打ち切られる。ここに救いはない。もしもこの文章を読んで誰かがうつむいたとしても、それはその人間の責任だ。

  ***

 俺は一切責任を負わない。
 あなたの名前が思い出せないことと、
 あなたたちが飛び降りたこと以外は、全て。


宇田川@ijafad


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◎参考文献

分裂病症例の現存在分析からみた ひとのつまづきの構造
宮崎 俊明

自殺に関する研究の現状
石井 敏弘

統合失調症の家族研究の変遷
田野 中恭子

学研の図鑑12 星・星座

大日本天狗党絵詞
黒田 硫黄

幽霊 近代都市が生み出した化物
高岡 弘幸